Episode 2 -サックスとホラ-


 ラティオスは海岸付近に着地した。ステラはそちらへ向かう。
 この町でラティオスはまず見かけない。どういうことなのかと、興味が湧いたのだ。
 ステラにはラティオスと、背の高い少年が見えた。
「ラティオス、ご苦労様」
「くぉーう……」
 せっかくラティオスを間近で見られるチャンスだったのに、ラティオスは早々と飛び去ってしまった。
 ステラはがっくりと肩を落としたしたが、ラティオスから降りた少年の存在を見逃しはしなかった。
 灰色混じった赤色のバンダナと、紺色の瞳が印象的な少年だった。
「あのラティオス、お前のポケモンなのか?」
「……いや。地元の野生ポケモンだ」
 少年はぶっきらぼうに答える。
「へー! ラティオスに乗っけてもらえるなんてすっげー! そうだ、ポケモンバトルしないか? オイラはステラ! こっちはコロトックのロト!」
 ステラを追いかけ、ようやく追いついたロトは、ステラの紹介でかしこまった。少年はロトを見て、
「悪いが、俺の満足できるポケモンバトルはできそうにない」
 とだけ言って、市街地へ向かっていった。
「待てよ! 何だその言い方!」
 少年はかまわず歩き続ける。
「何だよ、感じ悪い奴だな……」

 帰宅すると、母が待っていた。
「おかえりなさい」
「あ、母さん! はい今日のチップ」
「少しくらい自分用にとっておいてもいいのに」
「いいっていいって!」
 病気がちなステラの母親は、あまり長時間の仕事ができない。今は母子で暮らしているが、二人の収入はほぼ同じくらいだ。
 彼らは貧乏ながらも、幸せな生活を送っていた。
「聞いてくれよ! 今日ラティオスを見たんだ」
「ラティオス?」
「えっと、とにかく、このあたりにはいないポケモン! それに、伝説だって言われてるんだ」
「それはすごいわね。昔あなたが見たっていうポケモンとは違うの?」
「んー、違う! 何だったかな、あの綺麗な輝きを持つポケモン……」
 幼い頃、通常のポケモンとは明らかに違う、不思議な光を放つポケモンが、ステラの目を釘付けにした。だが、あまりにも昔の話であるため、ステラはそのポケモンの見た目をほとんど覚えていないのだ。
「空飛んでたってことだけは覚えてんだけどな……」
 母は、それなら心当たりがある、と言って、拾いもののポスターを出す。
「これ、見た?」
「って言われても……オイラ、字、読めねぇし」
「“ニュートラルポケモン発見”。最近、“謎の大陸”でだけ発見された、不思議な光を放つポケモンが話題になってるみたいなの。知らない?」
「あ、そういえば誰か言ってた!」
 誰かまでは思い出せないが、最近話題になっているのかもしれない、とステラは思った。
「で、ステラはこの大陸の中心にある“神秘なる山”の方向でその“思い出のポケモン”を見たと言っていた」
「そうだっけか? 全然覚えてねぇな」
「もしそのポケモンが“ニュートラルポケモン”だとしたら、今しかないわ。一度大陸中を旅してみたら?」
「えっ」
 突然の提案に、ステラは首を傾げた。
「いや、でも、生活費とか」
「それなら大丈夫。自分一人分くらい、何とかなるわ。それにステラだって、たまには自分の好きなことをしたいでしょう?」
 確かに、今自分はうずうずしている。思い出のポケモンにまた会いたくて仕方がないのだ。
「本当にいいのか?」
 母は何も返さず、静かに頷いた。

 ステラは、まず旅の途中の生活費を得るために、“ぼんぐりの森”に向かうことにした。

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