Episode 3 -お屋敷とダンボール-


 「ほらルー、御覧なさい。ついに完成したのよ!」
 ルーとは、ほんの数日前にエーデルワイスと友達になったブルーのことである。
 あれからエーデルワイスは、彼女のパソコンでブルーのデータを調べた。
 結果、ブルーの元親のデータが残っていることが判明した。
 なぜそんなデータが残っているのかはわからないが、そこで、このブルーが“ルー”と呼ばれていたことまでわかったため、普段はポケモンにニックネームをつけないエーデルワイスも、このブルーのことをルーと呼ぶことにしたのだ。
「あなたをイメージしたドレスを、マリーさんに仕立てていただいたわ。これで私たち、次の夜会もばっちりよ」
 エーデルワイスは、夜会にはいつもポケモンを一匹、連れて行く。
 その時にこのドレスを着て、ルーを社交界デビューさせる、というわけだ。
「バウ……」
「大丈夫よ。ドレイデン家を信じなさい」

「あら、エデルさん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、皆さん」
 最近知り合った娘たちが、向こうから声をかけてきた。
 社交界では基本的に、より地位の高い女性から話しかけるというもの。
 そんなことも知らないなんて、さすがは成金のバカ娘だ、とエデルは心の中で思った。
「今日も随分質素なドレスですこと」
「そうですか? このドレスはわたくしのブルー、ルーとおそろいですのよ。並んでこその、ドレスなのですわ」
「それっ、いけ!」
 短髪の娘が囁いた。
「きゃっ」
 近くにあったワイングラスを、長髪の娘がひっくりかえした。エーデルワイスのドレスはびしょ濡れだ。
「あーらごめんなさぁい、手が滑ってー。あ、でも、そのブルーを持つあなたにはお似合いですわね」
「新入りさんなんでしょう? ってことは、血統書つきではないんですものね」
 娘たちは去っていった。
 ここ最近は、親しかった友人も皆都会へ出て、成金の娘たちが力を持つようになってしまった。
「バウーバウ……」
 ワインに濡れたルーが、エーデルワイスを心配するように見た。
「大丈夫、あなたのせいではなくてよ。今日はもう、戻りましょうか」

 エーデルワイスは、服を着替え、すぐにドレスをメイドに差し出した。
「ピンクのドレスでよかったわ。汚れはきっときれいにとれるわ。白だったら、そうはいかなかったでしょうね」
 ルーの表情はなお暗い。
「さあさ、あなたはもう寝なさい。わたくしはもう少し勉強するから、部屋の電気は消さないけど許してちょうだい」
 エーデルワイスは、ルーを抱いてベッドに乗せ、布団をかけた。
 ルーにはモンスターボールがないため、エーデルワイスとは添い寝しているのだ。
「また明日ね、おやすみ」
 エーデルワイスは、終始穏やかな表情を保った。

 寝よう寝ようと思っていたが、ルーは見てしまった。
 机に突っ伏して、小刻みに震えている彼女を。
 声もなく泣いている彼女を。

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