東の市場は、今日も賑わっていた。
広場で拍手が聞こえてくると、そこで今日もストリートパフォーマーたちが人々を楽しませているのがわかる。
「すっげー! もっともっとー!」
「ハァイ、じゃあ次は五個でやってみようかな!」
ジャグラーの青年のもとに、チップが投げられる。
「ここ、なんかオイラのホームタウンみたいでさ。好きなんだよ」
「ふぅん、これが庶民の娯楽というもの……のようね」
「何だその言い方」
ステラはふくれっつらになった。
「あ、言い方が悪かったですか? えっと、ポップカルチャーですね」
「はいはいお嬢様」
「もうそのへんでやめとけ。んでお前、何か売りたいんじゃなかったのか?」
カグロが二人の会話をさえぎって言った。
「うっ……、ぼ、ぼんぐりを」
その会話を聞いていた女性が足を止めた。
「待って。そのぼんぐり、全部売っちゃうの?」
「え? はい、そうですけど」
「それはもったいないわ。私、港町でボランティアをしていたんだけど、このぼんぐりケース、もういらないから、よかったら使わない?」
その好意はありがたいのだが、いかんせんステラには旅費が必要だ。
ステラは、エデルの方をちらりと見た。
「何ですの?」
「……本当にメシ作ってくれんの?」
「ええ。同行するのならば」
「よし、じゃ頼む。あ、待ってください、それ、いただきます!」
ステラは、女性からぼんぐりケースを受け取った。
「これに入る分は入れて、あとは売っぱらっちまおう。あ、あと、“回復の実”買っとかないとな」
「それってひょっとして」
「うん。ルーにあげた、縞模様のやつ。こっちこっち」
太陽はじきに沈む。結局その日は市場に留まることとなった。
早速エデルが作ってくれたサンドイッチを食べながら、ステラは三人の距離を感じた。
「あ、あのさ! もっと寄れよ、そんで、喋れ」
「……そうですよね! さぁルー、そっちに移りましょうか」
「カグロ? お前は?」
「……」
カグロはそっぽを向いたままで、ステラたちには興味を示さない。
同行はほぼ決まったようなものなら、もっと仲良くなりたい。ステラはそう思い始めた。
「ああもうっ! こっちから行ってやる!」
ステラは立ち上がって、カグロの隣に座った。エデルもそれに続く。
ふっと顔をあげると、そこには大海が広がっていた。
「あ、これ見てたのか? きれー……」
「……俺さ」
カグロは、晩御飯の時間ではじめて口をひらいた。ステラとエデルが、彼に注目する。
「見たんだ。ルギア」
「ルッ……」
「声が大きい」
カグロが言うと、ステラはすぐに口をつぐんだ。
このメンバーの中で言うのだから、それは当然、ニュートラルポケモンのルギアを指している。ステラにもエデルにも、それはすぐにわかった。
「見間違いじゃなけりゃな。あのへん」
「あのへんっつったら……海底遺跡のあるとこじゃねーか! これはありえるな!」
ステラは一気に表情が明るくなった。
「実はオイラ、思い出のポケモンがいて。多分ニュートラルポケモンで、空飛んでたんだ! ルギアかもしれない、いや、きっとそうだ!」
「あら、ステラも? すごいわ、二人とも!」
エデルも、ステラにつられて笑顔になる。
「わたくしたち、なかなかいい三人組なんじゃない?」
「ハイハイ、オイラもそう思う!」
「俺も、かな」
カグロもふっと笑った。
夜が明けたら、あの遺跡に向かうことを約束した。ステラはエデルに寝袋を貸して、自分は木の上で一夜を明かすことにした。
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