Episode 5 -海底遺跡-


 ハガネールは頭をあげる。ステラは、カグロたちとは反対方向に振り落とされてしまった。
「ステラ!! 大丈夫?」
「んー、ま、何とか……」
 すっとぼけた声がハガネールの向こうから聞こえてきた。
「よし、いけっ! ロト!」
「……バカか?」
 ステラがロトをボールから出すと、ロトのことを知っていたカグロが一言言った。
「何だよ、見えない奴は黙っとけよ」
「コロトックで、ハガネールに何ができる」
「オイラの手持ち、こいつしかいねぇもん! あ、お前ら絶対邪魔すんなよ!」
 ステラは体勢を立て直す。
「“きゅうけつ”!」
 ロトの必死さに比べ、ハガネールは表情を歪めない。
「あー、無理だよなぁ」
「やっぱり……ステラ、悪いけどここはカグロに」
「ん、それは駄目」
 ハガネールが尻尾を振り回す。コロトックは、段差や壁の凸凹を利用してそれを巧みに流す。
「オイラたちはー、狭いとこのほうが得意なんだぜ!」
 ステラは、サックスケースからサックスを出した。
「“うたう”!」
 コロトックの歌声に合わせ、ステラもサックスを吹く。これで相手に、“うたう”の効果が届きやすくなるのだ。
「ハハ! ロトとオイラの“うたう”は、命中率100%だ!」
「トー、トーック!」
 ハガネールはうとうとしはじめ、しまいにははじめ会った時の体勢で寝息を立て始めた。
「やった」
「さて、ここからどうするかだな。またハガネールの上に乗ろうものなら、どうなるかわからない。ステラ、俺たちは別のルートを探す」
「……それがいいですわね」
「ん、わかったー! んじゃオイラ、進んどくから」

 ステラが進んだ先には、不思議な空間が静かに立ち尽くしていた。
 水中なのに息ができて、底も見えなければ水面も見えない。
「へぇ……」
 ステラは、軽く手を回して前進する。
 弱い力でも、思った以上に進むことができた。
「なんていうか……自分の身体って気がしないな。誰かに動かされてるっていうか」
 そう思った矢先に、前進に痺れを感じた。
「うっ! 何だこれ……電気……?」
 水と、超能力と、電気が支配する不思議な空間。
 ステラは目を開けることすら苦に感じて、瞳を閉じた。

 真っ暗な空間。瞳を閉じている間にも、連続的に痺れがステラを襲った。
 しばらくそんな状態が続いたが、その闇の中に光が紛れ込んだ。
 見たことがないような、輝く光。青と、紫と、それから黄色。
「これはっ!」
 ステラは思わず目を見開いた。ぼやけた視界に映っていたのは、ニュートラル・キングドラだった。

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