Episode 5 -海底遺跡-


 カグロの言う方向へしばらく進んでいくと、渦潮で進路が塞がれているところへ出た。
「先に進めないじゃないか」
「……ネオラント!」
 カグロはネオラントを出した。
「そんな無茶な」
「声が、聞こえた」
「は?」
「ルギアの……」
 ネオラントは海へ飛び込み、カグロもそれに続いた。
「行ってくる!」
「ま、待てよカグロ!」

 渦潮を避け、海底へ潜る。
「ネオラント、大丈夫か」
「ネーオ!」
「よし。もうちょっと頼むぞ」
 深くなるにつれ、ネオラントはいっそう力を強くした。
(待て。お前がここへ来る必要はない)
 カグロは、またあの声だ、と思った。自分に直接語りかけてくるかのような。ネオラントも感じとっているだろうか?
 そして、ニュートラル・ルギアは、カグロの前に姿を現した。海中であるはずなのに、燃えるような感覚がする。
「ニュートラル・ルギア……」
(お前を見た。ラティオスに乗っているお前を)
「やっぱりあの時の」
(そこで、お前に頼みがあるのだ)
「俺に? ……同行者二人がいるのに、俺だけに?」
(そうだ。あのラティオスに乗っていたところを見て、お前なら信用に値すると思った)
「光栄です。それで、頼みというのは?」
(フリーザー、サンダー、ファイヤーを呼び戻すことだ)
「伝説の鳥ポケモン……そういえば、この鳥ポケモンたちをルギアが支配することもあると、どこかで」
(そうだ。今はどいつも、この大陸にはいない。あまり長くいないでいると、この大陸のエネルギーが暴走する可能性があるのだ )
 そこでカグロは、海底遺跡でランターンと会った時のことを思い出した。
 確かに、あんなことが頻発すれば危険も伴う。
「それで、どうすれば」
(その方法を私は聞いていないのだ。呼び戻すための鍵は、恐らく誰も知らない。お前自身で、見つけて欲しい。他の誰にもわか らない方法で。だがお前も、仲間二人を欺き続けることは辛かろう。あの二人と旅を続け、真の絆を結んだと思った時には、話し ても良いこととしよう)
「……わかりました」
(よかった。では、海上まで送ろう。目をつぶれ)
 カグロとネオラントは、瞳を閉じた。
 浮遊感と、燃える感覚。粉になってしまいそうだ。
 途端、それは水の感覚に変わる。
(ついたぞ)
 カグロが目を開いた時一番はじめに目についたのは、ステラとエデルだった。
(頼むぞ)
「何でカグロなんだよ、ルギア!」
 ステラはありったけの力をこめて、ルギアに投げかけた。
「わからないか!? 俺だよ! 昔目があって、オイラのサックスを褒めてくれた……」
 ステラの叫びなど聞こえない様子で、ルギアは海底に潜っていった。
「そんな……」

 海底遺跡から出ると、太陽はすっかり沈んでいた。
 あれから、ステラに表情はない。
「それで、ルギアはなんて言っていたの?」
 その空気に耐えられず、エデルが訊ねた。
「今は言えない」
「何でだよ!?」
 それにステラが食いつく。
「何でもだ」
「……もういいよ! オイラは抜ける!」
 そう言い捨て、ステラは北に向けて夜道を駆け抜けていった。
 辺りにはただ沈黙が流れた。

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