森の中を走り抜ける何かに、ラフレシアたちは眠りをさえぎられた。
彼らは不思議そうに、何かが走り抜けた方角を見る。
しばらくして、それが戻ってこないことがわかると、また眠りについた。
みっともね。
みっともね。みっともね。
ステラは、森の泉に着くまで、心で何度もその言葉を唱えた。
泉に、醜い顔をした自分が映りこむ。首からさげていた“時のかけら”が水面をつつき、その顔は歪んで見えなくなった。
「キングドラァ……もう行き先がわかんねぇよ……どうしてくれんだよ……」
ステラは、溢れそうになる涙を必死でこらえた。
孤独でいるのが耐えられなくなって、ステラはロトをボールから出した。
「一緒に寝てくれるか?」
「トック」
ロトは静かにうなずいた。
朝。
野生のヤドンに水をかけられ、ステラは目を覚ました。
「お前なー。起こしてくれるにしても、もっと他に方法があるだろ?」
ステラはヤドンをなでて、立ち上がった。
ロトはもう起きていた。ステラの顔を見ると、すぐにステラのもとへ戻ってきた。
そして、何かを訴えるようなまなざしで、ステラを見つめる。
「ん? どうしたロト」
「トーック! トーック!」
コロトックはステラの胸元を指す。
「えっと……って、ない」
ステラは手探りし、それから目で確認する。ずっと首からさげていたはずの“時のかけら”がなくなっている。
「……なんてこった」
“時のかけら”は、ある意味ステラのアイデンティティとなっていた。ニュートラル・キングドラと意思疎通ができたという、
その事実はステラに勇気を与えていた。
「探さないと」
ステラとロトは、さらに北を目指すことにした。
ポケモンに盗まれたのか、人間に盗まれたのか。それすらわからなければ、探すあてもない。
「どうすればいいってんだ……」
ステラはたまらずロトに言った。
「ルギアにとっては、オイラなんてちっぽけな存在だよなぁ……覚えてなくて当然の。そう考えたら心が軽くなったっつうか……
ハハッ」
ステラは笑おうとしたが、ロトはすぐに空元気だとわかった。
なんとか元気付けようと、ロトはステラがよくサックスで吹く曲を奏でた。
「はげましてくれてんのか?」
「トーック」
「ありがとな……」
ステラはロトを、軽く抱きしめた。
そこに、ヤドキングが通りかかった。
ヤドキングはステラを見て、北西を指差した。
「あっち、ってことか?」
ヤドキングはうなずいた。
「何で知ってるのか知らねぇけど……行ってみる! ありがとな!」
ステラたちが向かった先は、さらに深い森となっていた。
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