森を抜ければ、しばらくの間は一本道。
村も西海岸のクレーター村までなく、特に困難な道もない。
……はずだった。
「なんだ、これ」
ステラは、不自然に倒されている長い草を見つけた。
草は模様になるように倒されているようだ。
「これとか、多分上から見たらマルの中にマルがいっぱい入ってんだろな」
「トック?」
ステラはその叢に入ってみる。やけに静まった辺りにガサガサと音が響く。
「ん? なんかつまずいて……げ」
ステラの足下には、たまごポケモン、タマタマがいた。
「タマタマタマタマ!」
「ひー! ごめんごめん! あれ、オイラ……浮いてる?」
タマタマの技で、ステラの身体はふわり、と持ち上がった。
眼下には、まるで芸術作品のような草の倒しあとが広がっていた。
「すっげー……」
しかしそれもつかの間の出来事で、タマタマはステラを下へ突き落とした。
「へぶっ! タマタマのくせして技めっちゃつえーじゃん! オメーら……落ちたのが叢じゃなかったらどうなってたと……」
ステラにロトが駆け寄る。
「確かタマタマは草・エスパータイプ! ロトには超有利! やっちまえ、“れんぞくぎり”!」
ロトは叢をも刈る勢いでタマタマに腕を振り下ろした。
「やった」
「タ……タマタマ〜!」
タマタマは叢に潜り、逃げていった。叢のおかげで、どこに逃げたかがまるわかりなステラには少しおかしく思えた。
ステラは、ロトに自分が上空で見たもののすごさを伝えようとしたが、どうも上手く伝わらなかった。
「うーん、ロトにも見てもらいたいんだけどな……あ、あそこ上ればいいじゃん!」
ステラは高台を指差して言った。
「行ってみようぜ! ……ん? どうしたロト」
ロトはその場で震えていた。目線の先には、無数のタマタマとナッシーがいた。
「何だあれ」
足下の、倒された草の部分部分が、何かに持ち上げられるようにしてしゃんとする。
「ナァッシィー」
「ぎゃぁ! これ“サイコキネシス”か!?」
ロトはオロオロしながら主人を見る。ロトは叢にいて、念力をくらわずにすんだようだ。
「うぐぐ……」
ステラはしばらく苦しんだが、何者かに右手を引かれ、念力から解放された。
「はぁ。お前絶対この辺のことわからずのこのこ入ったんだろう」
それは紫色の髪をした、ステラと同じくらいの歳の少年だった。
「悔しいけどその通りだよ。で、お前は知ってんの?」
「まあね。僕サイキッカーだから。ここ一帯はミステリーサークル! タマタマやナッシーが住み着いてるけど、それぞれのサークルにはエスパータイプの力を増幅させるパワーがあるんだ。今のは、言ってみればエスパーの力を大地からもらうための儀式みたいなもんかな? うかつに近づくところじゃない」
「だからあんな強いエスパー技を……」
「ミステリーサークルといっても、中には人為的に造られたものもあるんだけどね。そういうのは草が倒れたまんま。高台に上りたいなら、儀式が終わるまで待つってもんさ」
「んー、わかった。ありがとな」
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