Episode 9 -私の居場所-


「えっ……」
「図星みたいですね。この村にも、野生のブルーが住んでいるようですし。ルーはここ出身ですよね。なぜ絆橋に逃がしたんですか?」
「……」
「応えてください! わざわざ住みかから離れたところに、それも親のデータを残したまま逃がすなんて!」
 一歩引いたところで見ていたカグロは、それを聞いてエデルのもとへ寄った。
「色々訊きたい気持ちはわかるが、このへんにしとけ。……泣いてる」
「でも」
「小さい村だ。どうせまた歩いてりゃ会える。だからあなたも、次までに彼女に伝えるべきことを整理しておいてください」

 エデルたちは、ステラと合流した。ステラの腕の中で、ルーがもがいている。
「こりゃやべぇ。渡す隙に逃げちまいそうだ! こら、いってーな。腹蹴んなや! ってなわけだからしばらくオイラが抱っこしとくけど、いいか?」
「好きにしてください」
「え、エデルこえー。どうしたよ? ルーに嫉妬か?」
「後で話します」

 夕飯時ともなると、ルーも落ち着き、おとなしくポケモンフーズを食べた。
 夕飯をすませ、宿屋へ向かった。ずっと野宿ばかりだったから、宿屋ははじめてだ。
「で、エデル」
 宿屋といえど、同室で雑魚寝だ。薄い毛布をかけてから、一番初めに口を開いたのはステラだった。
「ルーのこと、教えてくれよ」
 ルーは既に眠っていた。エデルは、途中で途切れ途切れになりながらも、夕方の出来事を話した。
「えっ、それは酷いな! で、そっからルーの機嫌が……」
「ええ……」
「俺考えたんだけど」
 カグロは古びた天井を見たまま言った。
「ルーは居場所のなさを感じたんじゃないか? 今の主人はエデルだと思ってるけど、データ上は主人は彼女。自分の故郷に来て彼女を見て、ちょっと複雑になったんじゃ」
「なるほどな」
「じゃあ、今度あの人に会ったらちゃんと逃がしてもらいますわ」
「ああ、それがいい」

 東の空が白みかけた頃、ステラは起床した。
 いつも起きるのは自分が一番遅いのに、今日は一番のりか、と喜ぶのもつかの間、ステラは、部屋に一人と一匹が足りないことに気がついた。
「えっ、何で? カグロ!」
「何だよ、うっせーな」
「エデルとルーがいねーんだよ!」
「えっ」
 カグロも起き上がり、部屋を見回す。エデルとルーはいない。
 カグロは、ローテーブルの上に紙が置いてあることに気がついた。
 そこには、“突然すみません。ルーを探します エーデルワイス”と書かれていた。

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