最強チームとなりえるか


 バトルサブウェイにモンスターが現れたという噂は、瞬く間に広がった。
 巨大モンスターといっても、シングルトレイン、ダブルトレインを一日で制覇した少年のことを指した比喩だ。

「受かれることではないぞ、シングルとダブルを制覇した程度で」
 翌日にはすっかり有名になっていた少年に、ベテランのトレーナーが言った。
「わかってますよ」
「スーパートレインの切符、受け取っただろう? ここまでは、一日であろうと一週間であろうと、いわばたどり着けて当たり前。スーパートレインで、またサブウェイマスターの二人と戦うことになるだろうが、もう小細工は効かないぞ」
「……なるほど。となると、俺が戦った二人は、手加減だったと?」
「その通りだ。同じようにして勝てない」
「じゃあ、こちらも対策を練っておきますかね」
「本人がわかっているなら、それでいい」
 グッドラック、と言い残して、ベテランの彼自身もスーパートレインのホームへと消えた。

 噂の少年は、ソピアナ島のカグロ。イッシュに来て三ヶ月、トレーナーとしてのキャリアも特別長いわけではないのだが、元から備わっていた計算力、洞察力を生かし、時には先輩トレーナーに勝つことさえあった。
 今日はマルチトレインに挑戦予定。早速、マルチトレインのホームに入った。
 マルチトレインとなると、パートナーを探さなければならない。パートナー探しは、主にホームで行われる。
 平日の昼間ともなると、そこまで人はいない。さらに、噂のこともあり、自らカグロに話しかける者もいない。
 さて、どうしたものかと思った時、カグロに歩み寄った少女がいた。
「あ、あの、まだパートナー探し中ですか?」
「ああ」
「私、シオンと申します!」
 シオンと名乗った少女は、桃色を基調とした和装で、どことなく大事に育てられたような上品さを感じさせた。
「今日ライモンに来たばかりで、サブウェイには初挑戦になるのですが……よろしければ、組んでいただけませんか?」
 そこで、耳を傾けていた数人は納得の声を洩らした。シオンは、昨日の伝説を知らないのだ。
「ああ、わかった。組もう」

 シオンの手持ちを見て、カグロはチーム編成を考えた。
 いつもなら、相性的に不利だったり、防御が高く体力が削りにくい相手には“道連れ”を使えるゲンガーをぶつけるのだが、シオンはどうやら毒タイプのポケモンが好きらしく、手持ちも毒タイプが多かった。こうなると、毒タイプを持つゲンガーをカグロが使うと、タイプに偏りが出てしまう。
「じゃあ、今日はぬまぞうちゃん、くろみつちゃん。張り切っていくわよ!」
 シオンはニックネームで呼ぶが、選んだポケモンはそれぞれラグラージ、クロバットだ。そこでカグロは、バリヤード、ズルズキンを選び、電車に乗り込んだ。

 バリヤードは“この指とまれ”を覚えた珍しいタイプで、これでクロバットにエスパー技が当たるのを防いだ。
 また、ズルズキンの“ねこだまし”により、体力残りわずかのラグラージに一ターン猶予を与えた。
 そのラグラージによる“地震”が勝利に大きく貢献した。

「今日の目標達成。ぬまぞうの“地震”、なかなかよかった。組んでくれて、ありがとうな」
 カグロはそれだけ言って、その場を去る。その後ろ姿に、シオンは投げ掛ける。
「待ってください!」
 カグロは無言で振り向いた。
「今日はほとんどカグロさんのおかげで勝てたようなものです。それで……また明日も挑戦を?」
「そうか。いや、溜まったポイントで色々もらえたし、しばらくはまた育成に戻る。まだスーパートレインのレベルに達してないからな」
「っ……それなら、一度私と、バトルしてください。このまま引き下がるわけにはいけませんから」
 カグロはホドモエシティの方角を見た。日の入りまでは、まだある。
「……わかった」
 すぐそこの空き地で、バトルは始まった。
「べとちゃん、お願いします!」
「頼むぞ、ネオラント!」

「勝負ありだな」
「そんな」
 シオンは、その場にくずおれる。完敗だった。
「ネオラントは、俺の始めてのポケモンだから。サブウェイでは使わねーけど」
 カグロは、さっきまで戦っていたベトベトンを見た。
「毒タイプは相手の弱点をつきにくい。このまま毒タイプを極めるのは難しい」
「えっ……」
「もちろん、鍛練を繰り返せば使いこなせるようにはなる」
「……はい」


六花さん宅シオンちゃんお借りしました!
ほんのちょっとしか出番がなくて残念なのですが…続き物っぽくなってます。てかどこかに続きます。
時系列的には、憐さんが書いてくださったサラちゃん&カグロ話より後で拙作のトキヤ君&カグロ話より前です。

この指とまれバリヤードは本来『XD』でしか手に入らないのですが、XD技はタマゴで習得可能ということにしています。

⇒NEXT

120202