最強チームとなりえるか


 帰り道、カグロは腰についたボールの中で一番古いものに触れた。表面をなぞっただけで、傷だらけだとわかる。
 ネオラント。故郷のソピアナ島で捕まえたポケモンだ。オブリビア地方にモンスターボールは売っていないが、父が持っていたため、トレーナーとして旅立つ時に譲ってもらったのだ。
 オブリビア地方ては、ポケモンバトルは盛んではない。トレーナーよりも、レンジャーに圧倒的な人気がある。
 そんな中、テレビを見てトレーナーに憧れた。身内にトレーナーはいないし、当時はポケモンバトルの知識など皆無であった。
 それでも、自分はトレーナーとしてある程度のところまで来れた。
 レベル五十という範囲でなら、自分の実力も通用するのだ。

 だが、自分にも改善すべき点があるはずだ。
 自分は融通が利かない。物理型として育てられることが多いポケモンを特殊型として育てることはするが、発想はそこ止まりで、実戦で逆転の発想をすることができないのだ。
 結果、勝つときは勝つ、負けるときは負けるという、勝敗がわかりきったバトルとなってしまっている。
 色々と考えを思い巡らす間に、ユースホステルに着いてしまった。

「よーっしゃいくぞー、セツナ、“インファイト”だ!」
「おっと、ごっさん、まずは引きつけて……」
 朝八時ごろになると、もうバトルの声が聞こえてくるが、中でもひときわ元気な声が響いた方を見ると、青髪の少年と金髪の少女がポケモンバトルをしていた。
 セツナと呼ばれたダゲキが攻撃体勢に入るが、ごっさんと呼ばれたゴチミルは避けない。
「今だっ!」
「ゴチュ!」
 ゴチミルは高飛びし、木から伸びていたツタにぶらさがった。
 そして、ダゲキの背後を目掛けて空中ブランコのごとく勢いをつけた。
「させるか! セツナ、そこのベンチを!」
 ダゲキは一度力を抜き、ベンチを利用して三角跳びした。これでゴチミルのジャンプ力とも互角だ。ダゲキはゴチミルを掴もうとするが、かすっただけで上手く掴めなかった。
「おっと! ごっさんは頭が重いんですー、バランスの悪さも大事的な?」
「ゴチュ!」
「あ、ごめんごめん」
 プロポーションの悪さを冗談半分で言われ、ゴチミルは毒を吐くようにないたが、バトルは終わっていない。
「あーっ、ごっさん!」
 だが、ゴチミルがよそ見した時、ツタから手を離してしまった。
「技変更だ。セツナ、“ローキック”!」
「ダゲー!」
「ゴチュゥ……!」
 落下とともに、みぞおちに技をくらったゴチミルは、その場にうずくまった。
「ご、ごっさん! くっそ負けか……なんちって」
「は?」
 時を同じくして、ダゲキもその場にうずくまる。
「ツタにぶら下がるってのは技じゃないから、あのターンにしっかり“未来予知”しておいたんだよ!」
「くっそー、引き分けか……セツナ、お疲れ」
「ごっさんもお疲れ、……ああ立ち上がらなくていいから! ボールに戻してあげるから!」
 トレーナー二人が、ポケモンにねぎらいの言葉をかけてボールに戻す。
 フィールドを利用したスピーディーなバトルに魅了された者は、カグロ以外にも数人いた。
「はー、やっぱメグには一筋縄では勝てねーか、毎回毎回おちょくりやがって!」
「だってあんたエリトレっしょ? 正攻法で挑んで勝てますかって!」
「ところで、ごっさん進化させねーのか? もう充分レベル上がってると思うけど」
「そうなんだけどねー、ゴチルゼルになっちゃうと、今のバランスの悪さがなくなっちゃうでしょ? 結構このバランス、バトルに有利なんだよねー。まあそんなこと言ったら、ごっさんすねるけどね」
 最後の一言に、青髪の少年を含むギャラリーがどっと笑った。

 二人がポケモンセンターに向かい、ギャラリーもぼちぼちいなくなった時、カグロはたった今見たバトルを反芻していた。
 ツタはつり革、ベンチは座席。車両でも応用がきくフィールド利用法だ。
 育成だけに気をとられていると、この感覚を忘れてしまう。勝敗だけではない、面白いバトルを求めようと思えば、育成に重点を置き、ひたすら勝ち進むサブウェイのようなバトルだけでなく、そこらで旅人や住民が行っているストリートバトルも必要だ。どちらも楽しむ者にこそ、そういう発想が生まれる。
 また、テンプレ通りのバトルをするトレーナーを多く相手にするサブウェイマスターの前だと、なお有利に進めることができるだろう。

 カグロは早速、腰のボールに手を引っ掛けた。
 赤い跳ね橋を、朝日が優しく照らしていた。


草菜さん宅コウライ君お借りしました!
モブ的な描写だったので、またちゃんとお借りしたい所存ですけども…!

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