最強チームとなりえるか


※公式キャラクター(サブウェイマスターの二人)が登場します。

 ドリュウズは両腕を振り回し、キノガッサは元気に拳を突き上げ、揺れる車両に降り立った。
 相手からすれば、このキノガッサは攻撃的なのか、それとも“宿り木の種”と“みがわり”でひたすらフィールドに居座るタイプなのか、それを瞬時に見分けねばならない。だが、挑戦者たちは、ある程度サブウェイマスターが持つポケモンたちの知識がある。
 カグロはいろんな場所で得た情報を思い出す。このドリュウズは、“つばめ返し”を覚えているのだ。
 そんな技をキノガッサにされれば、威力は四倍、即退場だ。
 シビルドンは“いえき”を除けば電気タイプの技しか覚えていない。キノガッサに効果は今ひとつだし、ラグラージに至っては全くダメージを受けない。あえてシビルドンを居座らせ、集中的にドリュウズに攻撃していくという手もあるが、そうするとシビルドンはキノガッサに“電磁波”をしかけてくるだろう。
 二ターンとも微妙な攻撃とはいえ、シビルドンはあと技を一撃浴びれば倒れるだろう。となると。
 カグロはシオンのほうを見る。わかってます、とシオンは頷いた。
「キノガッサ、“守る”だ」
「キノーッ」
 キノガッサもそこそこの速さであるが、ドリュウズには勝てない。そうなると、まず一ターン目はこうするしかない。
 案の定、ドリュウズの“つばめ返し”は空振りした。
「それではいきますよ、ぬまぞうちゃ……」
「待て!」
 カグロははっとして、思わずきつく言い放ってしまった。
「えっ……」
「すまん。「次のポケモン」を思い出せ」
 カグロはそれ以上何も言わなかった。シオンも相手のポケモンについて知っていることを思い出す。
 相手のポケモンでまだ一度も出ていないのはアーケオスだ。そして、やはりこのポケモンも“つばめ返し”を覚えている。そうなるとキノガッサが技をかわす隙がなくなってしまうのだ。
「ドリュウズに、もう一度“滝登り”です!」
「ラーグ!」
 今までの戦いでよくやっていた“守る”と“波乗り”のコンボではない。だが、この場合はこっちの方が良い。
 窓際に背を向けることを意識して、ラグラージは水をまとってドリュウズにぶつかっていった。ドリュウズは防御が低い。かなりの水圧がドリュウズを襲ったが、ドリュウズはなんとか立ったままでいた。
 シビルドンは“電磁波”を浴びせられる相手がおらず、ターンが終わった。
 その時、キノガッサの目つきが変わる。持たせていた“どくどくだま”の効果だ。
「これで麻痺させられることもない……」
「うーーむ……」
 さすがにこれは、クダリにとっては面白くなかった。
「どっちにしろ、もう終わりですよ。ドリュウズ、“つばめ返し”!」
「跳べ、キノガッサ!」
「キノッ!?」
 跳べ、と指示が来たら、座席を土台にしろ、ということだ、とカグロは事前に教えていた。だが、いざ一戦目でやってみた時、座席が思いのほか固くそこまで効果を発揮しなかった。
 キノガッサは戸惑う。だが、バトルについて多くの知識を持ち、バトル向けの能力を持った自分をここまで育て上げ、サブウェイマスター戦にも起用したトレーナーの指示を信じられないわけではない。
「キノーッ!」
 キノガッサは思い切り跳んだ。座席はさながらトランポリンのようで、そのまま冷房装置につかまった。
「どうして……?」
 シオンが驚いた。
「あれがヒントだって、わかってたんですね」
「もちろんです」
 カグロは涼しい顔で言う。
「優等な車両だ」
 カグロはシオンにそれだけ言って、シオンもはっとした。
 優等な車両となると、加速が良いこと以外に何かがあるのかもしれない。カグロはそう考え、内装を眺めているときに、座席の分厚さに気がついたのだ。
 柔らかさを追求した座席。それはポケモンバトルでの効果も違ってくる、ということだ。
「すごいです……」
 シオンは思わず感心する。
「それでもダメージはあるはずです」
 ドリュウズは体勢を変える。キノガッサが跳ねた瞬間、「上から下へ」の攻撃が得意な自分が攻撃したところで意味がないだろう、と悟っていたのだ。
「列車が、カーブを曲がります。揺れにご注意ください……」
「ひょっとして」
 案の定であった。さっきと同じようなカーブで、ドリュウズは“地震”を繰り出したのだ。
 “命のたま”を持つドリュウズ自身も傷つくが、それでもドリュウズは縦に揺らすことをやめない。
「キノォーッ!」
 キノガッサは、とうとう手を離してしまった。
「ぬまぞうちゃん!」
 シオンが叫ぶ。そのあまりの揺れと、コントロールしている側が自分でないことの恐怖感に苛まれ、トレーナーたちは目を閉じてしまった。
「……キノッ?」
 キノガッサは確かに落ちたはずだ、落ちて“地震”で引きずられ、結構なダメージになるはずだった。
「ラァグ」
「キノー!」
 ラグラージはキノガッサを、腕と背中でしっかりキャッチしていたのだ。
 そのまま、両腕でキノガッサを抱えて降ろす。
「キノ……キノノォ」
「……ラグ」
「キノ……?」
 ラグラージは、そのまま倒れた。戦闘不能だ。
「そんな」
「ぬまぞうちゃん……長くいてくれて、ありがとう」
 シオンはしゃがんでボールを持つ。ぬまぞうと呼ばれたラグラージは、静かにボールに吸い込まれていった。

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