尖ったいもうと


 その日、ソラたち一家はカオリの秘密基地に遊びに来ていた。
 カオリといえば、少し移動するたびに基地も引っ越す気分屋なのだが、その基地一つひとつが非常に面白い構造になっており、カオリの基地を知る者からは引っ越すたびに取り壊しを惜しまれるらしい。
 今日ソラが挑戦している迷路はカオリの新作だ。柵やワープパネルが多く使われた迷路を、ソラはタマゴをしっかり抱きかかえながら進んでいた。傍らにはカオリのコダック、キャンもいる。
「こっちかなぁ」
 キャンは数分前からずっと頭を抱えている。コダックにはよく見られる仕草だが、ソラには少しもどかしかった。
「もう、こっち行くよ」
 そう言ってもなお気難しい表情だ。ソラは構わず進んだ。
  左の道の先にあったワープパネルで移動すると、何度目かの行き止まり。振り向けばキャンはいない。
「知ってたな!」
 ソラはすぐさま戻り、キャンに手を挙げると、持っていたタマゴがぐらりと揺れた。
「わーっごめん!」
 ソラは急いで両手でタマゴを抱えなおし、撫でた。タマゴは何度かかすかに揺れることがあったが、ここまで大きな揺れははじめてで、ソラも驚いた。
「キャンも、ごめんね。一緒に考えようね」
 右のワープパネルに立つと、最後は三叉路であった。黄色のバラが狂ったように咲く左の道、雪の結晶のような形の花が整然と植えられた右の道、南国の赤い花が植えられた中央の道。
 三つともなると悩みどころである。ソラが足下を見ると、キャンはより神妙な表情で頭を抱えていた。どうやらキャンにも答えはわからないらしい。
「きみはどう?」
 ソラはタマゴに問いかける。タマゴは数瞬、しんとしたのち、活発に揺れ始めた。
「あわわわ、どうしたの?」
 タマゴはそのまま、ぼんやりと光りはじめた。花を交互に眺めるように、タマゴも様々な色を映す。
「たいへんだー!」
 ソラは考えることをやめ、目の前の赤い花の道を突き進んだ。その足音にハッとしたキャンがぱたぱたと追いかけた。

「ゴールおめでとう! まあ、最後の道はどれでもよかったんだけどね、ソラちゃんは赤が好きなのかな? それなら赤いハートのシールで、ソラちゃんのゴールを華やかにえんしゅつ……」
「カオリー!!」
 カオリの言葉にもかまわずソラは突進する。否、これはソラの意志によるものではなく、タマゴの勢いによるものだ。
 たまらずにソラがタマゴをとりこぼすと、異変に気付いたカオリはすぐさま手を伸ばした。
 二人の腕の間で、タマゴは孵化した。無数のハートが飛び交う中ソラがまず認識したのは、そのトゲトゲの頭だった。
「ちょげー」
「この子は……トゲピー! それも珍しい、女の子だ」
 一部始終を眺めたウィエとカクタも、目を見開いた。はりたまポケモン、トゲピー。とても珍しいポケモンで、幼いながらも幸運をもたらすという。
 そんな中、ソラの反応は鈍かった。
「タマゴから生まれたのに、またタマゴじゃん」
 カオリは苦笑した。
 キャンたちコダック三羽は、頭に生えた三束の毛を触りながら、トゲピーのトゲトゲ頭を凝視する。その姿を見て、ウィエが言った。
「そうね、このトゲピー、コダックたちと似てるわね。それにソラのその髪とも」
「えー、やめてよ!」
 ソラが言うと、トゲピーはご機嫌そうにソラに歩み寄った。孵化する前から傍にいてくれた存在だ、と、潜在的に認識したのだ。
「……確か、おなまえ」
 ソラは空中に名前を書いた。と、げ、ぴー。
「ちょげぴー!」
 その指の動きが気になり、トゲピーも真似をする。
「げっ、ひょっとして……待って待ってトゲピー!」
 カオリの止める言葉にも構わず、トゲピーは指を天に向けた。
 途端、場は迷路ごと流されてしまった。

「だ、だくりゅう……」
「確かトゲピーって、ゆびをふるって技が得意だときいたことが……」
「これ、得意っていうのかしら?」
 カオリたちが咳き込む中、泥だらけになったソラとトゲピーが笑っていた。
「さっすが、ソラのいもうと!」


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