ヒノアラシとヘーゼルのもとに、ワニノコが一匹で戻ってきた。
「ワニノコ、おかえり。ヒノアラシはどうしたの?」
 ワニノコは来た道を指した。表情は暗くはないが、どうにも読めない。
「カシスさんのもとに行ったの?」
 それにははっきりと頷いた。迷いある表情だが、ヘーゼルはひとまずほっとした。
「そう。それならとりあえず大丈夫かしら。今度会ったとき、どうなるかわからないけど……」
「その時はその時だ。現状、俺にはヒノアラシが一番強く育っているように見えた。……お前たち、負けたくないよな?」
「チコ!」
「なら特訓だ。俺たちのセットは明日、まだ時間がある」
「そ、そうよね! ナポレオンたちもきっと手伝ってくれるわ」
「ワニャ!」
 二匹の元気な返事をきいて、二人はまた砂漠へ出た。

 夕空が赤く染まるころ、ポケモンセンターには明日開催するコロシアムのタイムスケジュールが貼り出されていた。
「カグロ、Aグループの一番じゃない、いいとこね」
「ああ。ヘーゼルはCグループで、カシスさんはBグループか。……ところでヘーゼル、この中に怪しいトレーナーはいるか」
「待ってね……」
 全国から凄腕が集まってくるとはいえ、毎日参加する地方民も多い。ヘーゼルにとってはほとんどが見知った名前だが、トレーナーの名前に目がとまった。ヘーゼルは声をひそめて言う。
「ミスター・R……参加するときの名前って、トレーナーカードがある場合はそれに準じるんだけど」
「明らかにトレーナーカードに登録した名前ではないな」
「うん。何かの理由で剥奪されたか、もしくは持っていないだけなのか」
 ダブルバトルを採用しているコロシアムとはいえ、こんなところは杜撰なのがオーレコロシアムであった。もともとごろつきの多い地域性だから、そんなところにこだわっていたら挑戦者がいなくなってしまう、という理由からである。
「パイラやラルガならそれでもわかるけど、ここはかなりの凄腕が集まるオーレコロシアム……怪しいっていえると思う」
「わかった、ミスター・Rだな。グループはD……俺もヘーゼルもグループリーグでは当たらないな」
「ええ。まずは決勝トーナメント進出を目指そう。タマゴを盗んだのは、バトル山マスターのムゲンサイさんとムゲンダイさんでも止められなかったトレーナー……カシスさんとも被ってないし、まず勝ち上がってくると思う」
 そんな話をしたところで、回復しましたよ、とジョーイから声がかかった。チコリータとワニノコには、カグロとヘーゼルの顔つきがかわったのがはっきり見て取れたし、逆も然りだった。生まれて間もないポケモンほど、一日々々で大きな成長を見せるのだ。
「今日は寝ましょう。大丈夫、これまでだって頑張ってきたんだし、今日はさらにカグロと……カシスさんだっていたんだから」
 チコリータとワニノコは、ヘーゼルの言葉に頷いた。その目はオーレの太陽ほどに輝いていた。

 グループリーグを戦い抜き、決勝トーナメントに進出を果たしたトレーナーが発表された。
 まずはAグループ、カグロ。チコリータ以外では、打たれ強いミロカロス、ダイノーズ、バッフロンを選出していた。昨日ともに練習していたこともあり、パーティとしてはうまく機能していた。
 次にBグループ、カシス。エースのクリムガンを筆頭に、物理・特殊ともに強い技を放てるウインディを選出していた。グループが違ったため、カグロもヘーゼルも他のポケモンは知らないが、ウインディがいるならヒノアラシは選ばれていないのでは、と危惧している。
 続いてCグループ、ヘーゼル。ワニノコ以外では、最も信頼できるパートナーであるワタッコのナポレオン、それから防御面を補うボスゴドラ、広範囲に効く地面技でワタッコと相性が良いサンドパンを選んでいた。ヘーゼルのワニノコ、カグロのチコリータともに、高威力の伝承技は使わずに勝ち抜いた。
 最後にDグループで一位となったトレーナーだが、これが例のミスター・Rであった。Dグループのバトルとはいつも試合が被っていたから、カグロもヘーゼルもリサーチする時間が限られていたのだが、どうやら”守る”と”大爆発”のコンボを多用するトレーナーであるらしい。
「決勝トーナメントは、グループリーグとはポケモンを二体まで入れ替えられます! パーティが決まり次第、カグロ選手対カシス選手から始めます」

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