タイムリミットの数え方


 今をときめくセレブが表紙の『ヴァンドルディ』は、その週も問題なく発売された。
 久しぶりにカリアの笑顔写真と「スキャンダル、やはり撮れませんでした!」の文字が載った号だったが、もはやカリアの写真が載っているか否かで部数が左右されることはなかった。そろそろ打ち止めだろうか、とサルビオは危惧したが、編集長からこぼれた言葉はそれについてのものではなかった。
「ずっとやってるとさ、長期連載ならではの感想がもらえるわけよ。「写真のカリアちゃんどんどん可愛くなってる」とか、「悔しいけどカメラマン腕上げたな」とか。カリアの人気だってまだまだ続くだろうし、やれるとこまではやってほしい」
「……はい」
 サルビオにとっても、この連載は小金稼ぎでもあるから、連載の継続は喜ばしいものであった。しかし、どこかで、それだけではないような気もしていた。

「……フラエッテ」
 サルビオは、テルロに貰った、というか押し付けられたそのポケモンを出した。バトルがしたいみたい、という話であったから、暇な時はバトルをさせている。クレッフィやプテラとはまだまだ並べないが、才能はあった。
 そのフラエッテは、青というクールな色を纏っていながらも、とても熱い性格をしていた。負けず嫌いで、強い相手にも果敢に挑む。それでプテラが本気になってしまって、逆にこちらがやめてくれと懇願したこともある。
「今日も、バトルするか?」
「フラッ」



「発表会」が近づいていた。
 テルロの階級はシュジェだ。ミアレバレエ団では主役を踊る男性ダンサーのことをプルミエ・ダンスールというが、その下の、主要な脇役をソロや少人数で踊る立場である。
 この発表会は、ミアレバレエ団の上層部の人も見る。やはり注目されるのはプルミエ・ダンスールや女性のプルミエール・ダンスーズであるが、シュジェでも技術があれば認められる。ミアレバレエ団に入るためには、とにかく注目されなければならないから、テルロはここしばらく、練習に没頭していた。
 しかし、その間にも、サルビオのクレッフィのことを忘れることはなかった。
「あの鍵さ、セキタイタウンで採れる石がついてた」
 ニンフィアはテルロの言葉に頷く。すっかりクレッフィと友達になった気でいるニンフィアも、しっかり見ていたのだ。
「まあ珍しくもなんともないんだけどさ。あんな石ならいくらでも採れるし」
 石を何に使うかといえば、それは単なる飾りであった。テルロも、「カフェ・トウトウ」で出会ったセキタイ出身の人に見せてもらって知ったのだが、一目見てセキタイのものだとわかるようになっても、他の鍵と機能は何も変わらなかった。要するに地域の色が出たもの、ということになる。
「ま、ミアレシティなんて田舎者の集まりなんだろうし、クレッフィがセキタイの鍵をぶら下げててもなにもおかしくないか。ヒャッコクだってド田舎なんだし!」
 テルロは汗を拭き、立ち上がる。そして帰る支度をした。
「ところで、トリミアンと仲良くなる気はないの?」
 ニンフィアはぷいとそっぽを向いた。

 ロビーで、まだランプが点いている自動販売機でカフェオレを購入し、ぼちぼち冬が来はじめているミアレのアスファルトを歩いた。
 ニンフィアたちはボールに入って、すでに眠っている。こんなに遅くなってしまうと、寝る前にボールから出すのも悪いから、今日は独りで眠ることになるだろう。
 なんだかんだで、独りで寝るのは寂しいなぁとか、だからといって自主練を怠るのはいけないなぁとか、色々と考えを巡らせていた時、急に何か冷たいものに抱きすくめられた。
「えっ……ハルンさん……?」
「サナー!」
 ハルンは、サーナイトにしては身長が高いが、テルロに比べると低かった。頭がテルロの鎖骨をくすぐる。
「……え!?」
 テレパシー、と呼ぶべきか、ハルンの叫びの後、ぼんやりとした光景がテルロの脳裏に浮かび上がった。青い天を刺すような、薄紅色のその物体は――。
「三日後……これはヒャッコクシティ!?」
 映像はそこでぶつりと切れて、ハルンはテルロから離れ、懇願するような目で見つめた。
「行けばいいんだね?」
 ハルンは強く頷いた。


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