闇、そして光へ…


 現身の洞窟で、サルビオは自分の姿を見た。
 この洞窟は、育った町シャラシティと、生まれた町セキタイタウンの間にある。直線距離にすると、ほとんど離れていないこの二つの町は、この洞窟によって隔てられている。
 昔、サルビオはここに来て、自分の睫毛を際まで切ったことがあった。そうすれば、男になれるのではないかと思った。
 しかし、すぐに母にばれて家に連れ戻され、ひどく叱られた後、戸惑いを含んだ両腕に抱き締められた。女として生きるのは不本意だったが、唯一の肉親は迷いつつも自分を大切にしてくれているのだと思うと、心は満たされた。
 そして今、あの時と同じ場所で、改めて自分の姿を見る。
 レンズを覗き込むだけの日々だった。シャッターチャンスを狙って撮影し、雑誌に売って一儲け。そこに「相手」はいなかった。
 それからの、ここ最近の出来事である。
 はじめて、レンズの向こうから視線を返してきたカリア。写真をくれと言い、さらには友達になろうとまで言ってきたテルロ。それから、『ヴァンドルディ』に写真の感想を送ってくる、顔も知らない読者たち。
 もう独りには戻れない、戻れるはずもない。けれど、進めども進めども袋小路で引き返す。そして訪れるのは再びの孤独だろうか。
 いっそ、双子の兄の、同じ色をした瞳に焦がれなければいいのだろうか。自分を見つめていたつもりなのに、色に呑まれて思い出すのは彼のことばかり。
 しばらくそんな逡巡を伴った沈黙が続いたが、その瞳に、ふと光が射した。
「フラ、フララァ!」
 フラエッテがその光の正体を見つけたようで、一輪の花をサルビオの服の裾に引っ掛ける。それから、そこまでサルビオを引っ張った。
「……どうした、フラエッテ」
「フラ!」
 その場所には、クレッフィとプテラも集まっていた。暗い洞窟で、その石は眩いほどに輝く。
「……“光の石”」
 フラエッテは、サルビオの右手小指を握る。一緒に触れたいらしく、クレッフィたちも様子を見守る。
「そうか。フラエッテ、進化か……」
 サルビオはその場にかがみ、フラエッテとともに、“光の石”に触れた。

 ○

 改めて思い返してみると、ザリストには引っかかる箇所がいくつかあった。
 ミアレで初めて会った時。サルビオはザリストとバトルをすれば満足し、特ダネ映像を削除した。
 そして、ヒャッコクシティで会った時、ザリストが“プテラナイト”を奪える程度の隙を見せた理由。
「俺のため……?」
 たまらなくなって、ザリストは顔を歪ませる。こんな表情、例え幼い頃から共にいるニダンギルにも見られたくはなかった。
 双子の妹を探す理由、それはいつも自分のためだった。父も母もいない、しかも彼らは結婚すらしていない。そんな状況で、自分が何者なのかを知るため。
 対してサルビオはどうだったか。
 ザリストを追いつつも、自らが双子の妹だと告げることはできなかった。男として生きているなら当然だ、現にザリストはサルビオの話を聞いた時、受け入れがたいものがあった。
 多くのノイズにまぎれて行動していた自らの片割れサルビオは、ザリストを傷つけることができず、それでも兄の心を追い続けていたのだ。
 それならば、そんな片割れの気持ちに応えるならば、フラダリの野望を阻止し、平凡な日常の中にまた片割れを溶け込ませる。
 それ以上何を求めるというのか。
 そう思った時、ニダンギルがザリストの持っていたものに反応した。
「お前……“闇の石”を」
 ニダンギルは、サルビオのプテラから“プテラナイト”を取った時と同じように、その刃でザリストを傷つけないようにして“闇の石”を投げ上げた。その石は落下することなく、ニダンギルを照らす。
 その光は、ザリストの青緑色の目にも飛びこんだ。数度まばたきをして見えたのは、大きな盾を携えたポケモンだった。ニダンギルの進化形、王剣ポケモンのギルガルドだ。

「……守れ、っていうのか」
 ギルガルドは、一つ頷いた。

 今まで、攻撃をすることしか知らなかったポケモンが。
 否、攻撃しかしてこなかったのは自分だ。
 自覚した上で、ザリストは言う。
「ギルガルド、頼む。もう少しだけ、力を貸してくれ」


青氷さん宅カリアちゃん、お名前だけお借りしました。
タイトルは「ポケモンカード★neo」第四弾拡張パックの名前をそのまま借用。

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