逢い言葉を唱えて


 攻撃を眺めながら、テルロが言う。お前、ここ出身だよな、と。
「ああ、そうだが」
「クレッフィの鍵を見て思ったんだ」
 セキタイ産の、単純でありながら美しい石で飾られた鍵だ。今となっては、その鍵に当てはまる錠を持った扉など存在しない。
「……ザリストも、なのか?」
次にそう問うた時、もう話さねばならないと、サルビオは悟った。少しの緊張感を持って、話し出した。今までのこと、ザリストとのこと。
全て話し終わった時のテルロの反応といえば、実にあっけらかんとしたものであった。
「……つまりお前、ザリストの双子の妹なのか?」
「ああ。……驚かないのか」
 テルロは、視線を兵器からサルビオに移す。
「驚かないよ。バレエやってたらそんな人いっぱいいるし!」
「……そうか」
 サルビオは苦笑した。軽蔑されるとか、そんなことはテルロに対して考えることではなかったのだ。
「今度さ」
 次はテルロが口を開いた。
「一緒にバレエ観ないか。大好きな先輩がいてさ。他にも上手い先輩いっぱいいるし、サルビオだって全員分のデータ、持ってるんだろ?」
 ポケモンたちの攻撃はさらに大きなものとなる。言ってももう聞こえないと思って、観念したように、サルビオは頷いた。

 ○

 兵器の力が減少している、このままならばいける。
 ポケモンには、自らを電気信号と化す能力がある。ザリストは、電気信号化したサメハダーを、見つけたソフトによって“最終兵器”と接続し、ひたすら攻撃を指示していた。外部の攻撃もかなりダメージを与えられたが、より直接的な方法をとることによって、サメハダー一匹でも充分なダメージを与えられた。
「いいぞサメハダー……もうすぐ力がゼロになる!」
 その時、ごう、と遠くで音が鳴った。研究員たちの悲鳴が聞こえ、やがて誰の気配も無くなる。画面を見れば、二つのソフトは強制終了されていた。
「どういうことだ……」
 ひとまず、サメハダーをパソコンからボールの中に移動させ、ボールをマシンから外した。ボールから出たサメハダーは、にこりと笑った。
「ひょっとして……破壊を食い止められたのか」
「ザッ」
 その時、ギルガルドが呻いた。サメハダーが少しぶつかったのだ。
「すまん、またボールに戻ってくれ」
 ザリストがボールに戻し、空間に余裕ができても、ギルガルドはまだ呻いていた。
「何かあったのか、ギルガルド?」
 原因はサメハダーではなかったらしい。その時、一部だけギルガルドが“キングシールド”を解除させ、その場の岩が落下した。もう体力が限界なのか、と思ったが、落下した岩の間から通ってきたのは、サルビオのクレッフィだった。クレッフィは鍵を鳴らしてギルガルドに礼を言い、キーボードに向かった。そして、慣れた動きで文字を打ち込む。

 Je veux te voir.

 それこそが、サルビオがクレッフィに覚えさせていた「パスワード」だった。ザリストは一度一気に読み、それから単語の一語一語を確かめるように見る。
「会いたい……?」
 クレッフィは頷く。“最終兵器”が沈み出した時、ザリストの匂いを嗅ぎ分けたトリミアンに背中を押され、兵器の端にくっついて下りてきたのだ。
「アイセルビアが……」
 ザリストは、サルビオにはもう会わないつもりでいた。最終兵器を止めて、サルビオを守れたら、それで充分だ、と。
 それなのに。
 また、心が揺らいでしまう。
 クレッフィは返事をせず、“守る”を使った。クレッフィにこの岩を打ち破る攻撃力はない。今のうちに、とクレッフィは鍵を鳴らしてギルガルドに合図した。
 それを受け、ギルガルドは一度息を吐く。体力が尽きるぎりぎりのところだったのだ。ひゅっと盾から身を引き抜き、剣を岩にぶつけた。“聖なる剣”だ。
 岩は砕け散り、パソコンの画面がエレベーターの扉を照らした。

(Je veux te voir……俺もだ、アイセルビア)


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