すべての収束


 トリミアンはそこだと言ってきかなかった。テルロとサルビオは、兵器と共に埋もれてしまった、秘密基地への扉を掘り起こす。
 やがて、扉の向こうから低い機械の音が聞こえた。エレベーターは動いていたのだ。
「おお、やったー! んじゃ僕は帰るよ。どうせまた練習あるんだし、筋肉痛対策しなきゃな!」
「えっ」
 サルビオは引き留めようとしたが、テルロはニンフィアたちを連れ、陽気に歩き出してしまった。やっぱりよくわからない奴だ、と思った時、扉が開いて、ザリストとクレッフィが現れた。
「ザリスト」
「……」
 扉から出て、クレッフィはサルビオの隣につく。ザリストはサルビオの髪をすくった。
「……切ってないのか」
「というか……お前に会ってから、伸ばし始めたんだ。やっぱり髪長い方が女っぽいし、それに妹にだって」
「切れ」
 ザリストは低く言い放った。
「え」
「今すぐ切れと言ってるんだ!」
 ザリストはぎゅうと髪を握る。サルビオはどう返したら良いのかわからず、痛い、と言えば、ザリストは手を離した。
「さすがに今すぐは無理だ」
 せいぜいそう返せるのが関の山だ。見上げてくるサルビオの瞳を見て、ザリストは一つ咳払いする。
「すまなかった」
 サルビオは息をのんだ。自分は何も、謝られるようなことはされていない。
「お前、名前は」
 サルビオが黙っているのを見て、ザリストは言う。サルビオはしばし黙考した。彼の知る自分の名前は「アイセルビア」だが、なんとなく求められている名前はそれではないような気がした。
「サルビオだ」
 言った時、ザリストはサルビオを抱きしめた。セキタイの人間だからか知らないが、サルビオには懐かしい感覚がした。強さ、それから脆さを、相手も自分も持ち合わせていることが伝わってくる。
 ザリストはサルビオの髪に指を埋めて言う。
「サルビオ、お前は、俺のたった一人の……双子の弟だ」

 ○

「なに、お前ら一緒に住んだりとかしないわけ」
 その時の一部始終をテルロに報告したのは、サルビオでなくザリストだった。
「今更するかよ」
 何と言うことはない。何せ、お互いスパイとパパラッチだ。性質からして、誰か人間と共に暮らすなど想像もつかぬことだ。
「でもまあ、たまに会おうってことになった」
「そっか! あ、お前もバレエ観に来いよ」
 そう言って、テルロはハルンが出演する日程のチケットを渡したが、ザリストはそれを手で払った。
「興味ないな」
「あ、ひでー」
「そういうことは、せめてプロになってから言え」

 発表会が終わった後、テルロは担当講師にこう言われた。「プルミエ・ダンスールを目指せ」と。
 よほどのことがない限り、ミアレバレエ学校でシュジェの者がそのままバレエ団入団ということはない。お前は普通に上手いのだから、まず校内でトップになって王道を行け、とのことだった。
 ただし、残された時間はあまりない。バレエ団のプルミエール・ダンスーズが一人抜けるということで、ハルンが昇格する可能性があるのだ。ハルンばかり上には行かせない。テルロだって、追いつけ追い越せと、練習を続けているのだ。

「それもそうだな」
 テルロが言うと、ニンフィアはリボンでテルロの手の甲をつつく。そして、ニンフィアはザリストに、よく言った、と伝えるごとく笑った。

 伝説のポケモンについては、あれから噂が飛び交っている。目撃情報も多いが、証拠がなにもないから何とも言えないのである。またどこか、最終兵器のある場所とは違うところで、人知れず生きているのかもしれないし、また眠ってしまったのかもしれない。ただ、伝説のポケモンと共闘した少年少女のことが、新たなる伝説になりつつあった。
 ザリストは職探し中だ。有能なスパイであるから、すでに依頼はいくつかある。その中から、今度は「自分を最後まで信用してくれるか」という判断基準で仕事を選ぶことにしている。
 サルビオは相変わらずパパラッチを続けている。今こうしている間にも、ミアレシティのセレブたちのあらぬ姿を撮影しているのかもしれない。
 そして、テルロはバレエ学校に向かう。
 けして相容れないはずの者たちの、ありふれた日常が、そこにあった。


 毎度これぐらいの勢いがあればいいのにと思いました。一ヶ月弱で完結です。
 ともあれ、この話はここで一区切りになります。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

 131124
 Next Stories are...
  ⇒アンサンブル・プレイングII
  ⇒豊縁曼荼羅(ORAS)