真価の絆


!!注!!
○夢要素(オリトレのサルビオ→コルニ)があります。
○カロス小説の『光と闇のルーティーン』から『すべての収束』までを読まれてからの閲覧を推奨します。



 誰がこんな奇妙奇天烈な建築を遺したのか。ただ、マスタータワーの赤レンガは空の青色に映えていた。
 しかし、サルビオはそれを見上げない。代わりに、自分と似たような色の髪をなびかせた女性に話しかけた。
「お前……マスタータワーに出入りしてるよな」
 彼女は目を真ん丸くしたが、サルビオの問いにはしっかり答えた。
「……ええ。確かにそうよ」
「プテラがメガシンカするというのは本当か」
 サルビオは、五年ほど前から隣にいるクレッフィに加え、つい最近プテラも仲間にしていた。超古代ポケモンが、まだまだ事例の少ないメガシンカを果たすなんて、噂だけじゃ納得いかず、マスタータワーによく出入りする女性を狙っていたのだ。
「まだ表に出せるわけじゃないけど、プテラがメガシンカした事例はあるわ」
 それを聞いて、サルビオははっとした。
「そ、それなら、メガシンカできる石も――」
「一応これじゃないかという目星はついてる。……というか、それなら直接マスタータワーに行って、然るべき人に稽古をつけてもらった方が早いんじゃないかしら」
 痛いところを突かれ、サルビオはぐうと唸る。
 自分だって、できることならとっくにそうしている。尤も、あのメガシンカオヤジとかいうやつがコルニの祖父でなければの話だが。
「頼む! 俺にプテラのメガシンカについて教えてくれ」
 サルビオが言うと、彼女は手を顎に当て、んー、と考える振りをした。そして、それが人にものを頼むときの態度かしら、と訊いてきた。
「えっ」
「なんとなくだけど、タワーに行きたくないのよね? 本来ならそのへんの事情も話すべきだと思うけど、まあ今はいいわ。それよりも言葉遣いよ、言葉遣い」
「うっ……」
 言い切ると、彼女はにこりと笑った。ここで断られてしまったら、メガシンカへの道は絶たれる。それならば、と思い、サルビオは慣れない言葉遣いで懇願した。
「僕はシャラシティのサルビオです。お願いします、僕にプテラのメガシンカについて教えてください。他にどうしようもないんです」
「んー、わかったわ」
 間髪入れず彼女が言った。
「本当に……」
「今までは大人中心で研究してたし、君ぐらいの年齢の子がメガシンカに成功してくれたら、研究が大きく進むし。いいわ、メニューを考えましょう。私はティユール、よろしく」
「よろしくお願いします、ティユールさん」
 その時、サルビオははじめて彼女の顔をじっと見た。端正とした顔立ちの後ろに、マスタータワーがそびえるさまは、どことなく畏れを抱かせた。

 プテラの“ブレイブバード”は、持ち前の素早さを活かし、迷いなく進んだ。その技をもろにくらってしまったティユールのリーフィアはその場に倒れる。
「ローリエ!」
 ティユールがリーフィアの名前を呼ぶ。元々防御の高いポケモンであるから、苦手なタイプの技であっても、一発で戦闘不能になることはない。ゆっくり立ち上がるが、ダメージはかなりのものであった。
「よく育ってるわね。メガシンカするには十分な強さだわ」
「本当ですか」
「ええ。ただエネルギーの抑制と開放には、トレーナーにもポケモンにもコツがある。そのコツをマスターすれば、サルビオくんのプテラもメガシンカできるわ」
 お疲れ様、と言葉をかけて、ティユールはローリエをボールに戻す。続いて、別のボールを投げた。出てきたのは、サルビオのポケモンと同じくプテラだった。
「プテラ! 持っていたのですか」
「もうちょっと内緒にしていても良かったけど、今の“ブレイブバード”の威力を見てね。じゃあ、今からお手本。サルビオくんもプテラも、しっかり見ててね」
 ディル、よろしく、と言って、ティユールは彼女のプテラに紫色の石を渡した。そして自身は、腕のリングに虹色の宝珠をはめる。
「キーストーン装着、っと。……メガシンカ!」
 なにも腹の底から声を出したわけではない。それでも、ティユールのキーストーンから、プテラの持つ宝珠から、巨大なエネルギーが流れ始めるのをサルビオは知覚する。
 きゅいいん、と音がして、強い旋風がプテラを包む。おさまった頃には、見たこともないがすぐにプテラだとわかるポケモンがそこにいた。
「メガプテラ。メガシンカ完了」
「すげぇ……」
 メガプテラに釘付けになるサルビオに、ちゃんと見ててくれたね、と声をかけたティユールは腕のリングを外した。ディルは一旦ボールに戻される。
「まだ試作品だけど、これがメガリング。ポケモンの宝珠とキーストーン、そして二者の間の強い絆を繋ぐ役割を持っているわ」
「強い絆……?」
「ええ、ポケモンの潜在的なパワーを引き出すためには必要とされているわ」
 まあまずは練習よ、と、ティユールはサルビオにメガリングを渡した。同じく、ボールから出てメガシンカが解除されたディルがサルビオのプテラに宝珠を渡す。
 サルビオは深く息を吸った。プテラも緊張した面持ちだ。ゆっくり息を吐き、キーストーンをリングにはめる。
「キーストーン装着。……メガシンカ」
 サルビオが言っても、ふたつの宝珠は一度閃光を放っただけで、ティユールとディルの間にあったような旋風は起きない。ここまで薄い反応は見たことがない、とティユールも驚く。
「プテラには充分な素質があると思ったのに……」
「じゃあ……僕が足りないというのですか」
「……」
 教えてください、と言われ、ティユールは口を開いた。
「あくまで私の考えだけど。プテラとの間に何かあった?」
 サルビオはプテラを見る。プテラは戸惑ったのか宝珠を落とした。海に転がり落ちる前に、ディルがそれを拾う。両者の表情を見て、ティユールは続ける。
「それがマスタータワーに近づかない理由と関係があるのかはわからないけど。ここまでプテラを育てられたなら、サルビオくんも優秀なトレーナーであるはず。プテラとの壁は必ず超えられるはず。私もできる限り協力するわ」
「ティユールさん……」


 本藤遥さん宅ティユールさんお借りしました。少しだけ前の話。

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