真価の絆


!!注!!
○夢要素(オリトレのサルビオ→コルニ)があります。
○カロス小説の『光と闇のルーティーン』から『すべての収束』までを読まれてからの閲覧を推奨します。



 化石掘りが好きなんて変わってるね、と言った友達も、実際に見つけた“秘密のコハク”を見せると、目を輝かせた。
「きれい! こんなの、いっぱい掘れるの?」
「ううん、私が掘れたのはこれだけで……」
 少女たちはさらに覗き込む。うち一人が、あれ、と言って石を指さした。
「ねえ、虫みたいなの入ってるよ、これ」
「ほんとだ、気持ち悪ーい」
 だから化石なんだけど、と言う暇もなく、みんなが離れる。はぁ、とため息をついたが、そこにはまだ一人残っていた。
「あたしにも見せて」
 言ったのは、明るい金髪を伸ばした少女コルニだった。さっきは女の子たちに邪魔をされ、じっくり見られなかったのだという。
「こんな小さい石がポケモンだったなんてすごいね!」
 コルニは目を輝かせる。他の子たちとは反応の違う彼女に、逆に反応に困ってしまう。
「あたしだってさー、格闘タイプのポケモンが好きだから、変なのーって言われることあるよ。だけど、好きって気持ちを否定することなんてできっこないよね。アイセルビアはそのままでいいと思う」

 サルビオがまだアイセルビアと呼ばれていた頃。
 彼女は、確かに、少女コルニに恋をした。

 早朝のマスタータワーは、東側のみが白く光って、まるで南の山脈地方にある巨峰モン・セルヴァンのように見えた。いっぽう、西側は影になっていて、色の見分けがほとんどつかなくなっていた。
 光と闇。
 よりによってこの建物で意識させられるなんて。
 コルニがメガシンカの秘術を継承する家系だと知ったのは、サルビオが母から一人立ちする少し前だった。
 それまでは、少し変わった趣味を持つ似たもの同士として接していたが、自身が男として生きることを決めたとき、もう彼女には近づくまい、とも決意した。焦がれる気持ちを抱いたままで、彼女のそばにいることはできない。男として生きると決めたのだ、これぐらい大差のないことだ。
 と思っていたのに、六年以上経った今でも、思い出しては身が重くなる。
 彼女は格闘タイプを極め、ジムリーダーにまで上り詰めた。彼女の噂など、聞きたくなくとも耳にしてしまう。
 どこかで、彼女の成功を呪っている自分すらいる。
 こんなめちゃくちゃな心境で、彼女と彼女の祖父が通うマスタータワーになど、入れるわけもなかった。

「サルビオくんー?」
 その声に我に返ると、ティユールはくすくす笑った。
「さっきも呼んだのに。でもクレッフィは反応してくれたから、鍵見せてもらってたの」
 こいつめ、とサルビオは口には出さず悪態をついた。怪しい奴に鍵は見せるなと口酸っぱく言っている。
「この鍵、先が欠けてるし、拾い物かしら? 石が好きなの?」
 ティユールは石のたくさんついた鍵を見て言った。
「……はい、石は好きです」
 サルビオは否定に入ろうとしたが、今の自分が男であることを思い出す。女の子にしては変わっている趣味だった化石掘りも、今となってはおかしくはない。
「こんなに持てるなんて、クレッフィは力持ちね」
 ティユールが言うと、クレッフィは鍵を鳴らして喜んだ。そして、サルビオのすぐ隣につく。
「あら、仲良しさん?」
 クレッフィは笑った。サルビオはゆっくり立ち上がる。
「クレッフィとはかれこれ六年前から一緒にいますから、まあ」
「絆が芽生えてるのね」
「これが絆ですか」
 サルビオが率直に訊くと、ティユールは笑った。
「なら、きっとプテラとも大丈夫」

 二人と二匹のプテラで、シャラシティの海岸を歩く。このあたりの海は深く美しい。そのため、多様なポケモンが生息している。
「タワー自体に不思議な力ってあるんでしょうか」
「さぁ。修行に使われてるってだけじゃないかしら。でも確かに、メガルカリオ像は目を見張るものがあるし、上からの見晴らしは最高よ。是非サルビオくんにも見てもらいたいけど……」
 そこまで話して、ティユールはサルビオの表情が曇ったことに気が付いた。
 んじゃま、とりあえずこのへんで、とティユールは気を取り直して言う。サルビオはメガリングを渡され、プテラは宝珠を渡され、また同じことをする。
 しかし。
「メガシンカ! ……やっぱ無理、か」
 ずっとこの状況から抜け出せずにいる。
 ティユールは絆を深める方法を色々考えているのだが、なにぶんここまで無反応だという前例がないのだ。それでも、マスタータワーに行けという言葉が禁句である以上、自分で考えなければならない、と思っていた。
「まあ、気落ちせずに。そういえば、まだ聞いてなかったね。サルビオくんとプテラの出会い」
「出会い?」
「ええ。秘密のコハクから甦ったんでしょ? 石が好きって言ってたし」
「……はい、そうです」
 一度始めたら、その後の言葉も続いた。秘密のコハク自体は昔から持っていたこと。最近甦らせて、ともに鍛錬してきたこと。
「昔から持ってたのに、甦らせたのは最近なのね。仲間が欲しかったの?」
「いえ」
「じゃあどうして?」
「……昔のことを、断ち切りたくて」
 秘密のコハクに目を輝かせたコルニのことを、忘れたくて。
 相変わらずよくはわからない、と思いながらも、ティユールはサルビオの複雑な表情を読み取る。太古の世界を生きたプテラが、化石となりサルビオを見ていたのかはわからないが、プテラもまた表情を曇らせた。
 そして、
「メガシンカできない理由、わかったかも」
 と言うと、サルビオは跳ねるように顔を上げた。


 本藤遥さん宅ティユールさん、引き続きお借りしております。

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