真価の絆


!!注!!
○夢要素(オリトレのサルビオ→コルニ)があります。
○カロス小説の『光と闇のルーティーン』から『すべての収束』までを読まれてからの閲覧を推奨します。



 今のプテラと対話をしろ。それがティユールに与えられた課題だった。どういう意味ですか、と訊いても、それ以上のヒントはなし。
 それでも、ここを自らの力で切り開けないとメガシンカはない、とサルビオもわかっていた。
「お前さ、昔のこと覚えてんの」
「ガウ」
 そう話しかけてみると、プテラはマスタータワーのほうを見て、翼についた小さな手を左右に、地面と平行に振った。
「マスタータワーが……平ら? あ、そうか、まだなかった頃、ってことか」
 サルビオが言うと、プテラは首を縦に振った。そして、地面を蹴って垂直に跳び、高速でシャラシティを一周した。
 その姿は、まるで自由だ。確かにこのプテラは、モンスターボールもなかった時代を知っているのだ、とサルビオは思った。
「今のお前は……甦っても良かったのか。だってどうせトレーナーはこんなので」
 サルビオが言い終らぬ間に、プテラはポンとサルビオの胸に手を置いた。生地の熱い服を着ているとはいえ、触れられた胸は少しだけ沈む。
「……俺が……?」
 プテラはサルビオの目をじっと見る。サルビオと同じ、コーストカロス北部の人に多い青緑の目で。
「俺は、お前を」
 ためらいながらも、サルビオは話す。
「化石のまま、打ち捨てようと思っていた」
 そこまで言っても、プテラはさほど驚かない。ただ、何がサルビオの心を動かし、化石の復活に踏み切ったのか興味はあるようで、頷いて続きを促した。
「コウジンタウンまで行ってさ……まだ迷ってた。捨てるか、復活させるか。……思いをすべて振り切って捨てようとした時、コハクに太陽の光が反射して」
 浮かび上がったのは、金の輝き、中にある虫のような遺伝子、そして、……幼き日の金髪の少女コルニだった。
「ここで捨ててしまえば、その一瞬が焼き付いて離れない……と思ったから、お前を甦らせた。形を完全に変えてその輝きをこの世から完全に消すには、それしかなかったんだ」
 サルビオよりずっと年上のプテラは、黙って話を聞く。話してみれば極めて自己中心的な身の上話を優しい表情で聞くプテラを見て、サルビオの瞳から大粒の涙が溢れた。
 ――「男」になったその時から、泣くまいと決めていたのに。
「俺、最悪だ。いつまでも自分のことばかり考えてて、お前のこと考えてなかった……」
 嗚咽の混じった声で、ごめん、と言ったサルビオの背中を、プテラのごつごつした手が優しく撫でた。

 しばらくして、落ち着いたサルビオは、プテラのボールを出した。
「お前は化石から復活させたから、ボールに入れて捕まえるってことはしなかった」
 言えば、プテラは頷く。
「だから、敢えて今言う。俺と共に、強くなってくれ。これからも共にいてくれ」
 プテラは青緑色の瞳を見開いた。もともとサルビオは性格に難ありとはいえ、ポケモンを育てるスキルは並み以上だ。プテラには、一年共に過ごしただけで、それがわかっていた。
 だから、それまでよりも大きく頷く。
「ゆけ、モンスターボール!」
 プテラのボールであるから、出てくることはない。こんなものは通過儀礼だ。
 いつものようにプテラが収まったボールを拾って、サルビオが言う。
「よろしくな、プテラ」

 翌朝、ティユールに会ったサルビオは、いつものようにメガリングと宝珠を借りた。
「今日は……いつもと違うわね」
「そうですか。僕もそう思います」
 上達しない下手な敬語で、サルビオは言った。プテラの様子を確認して、キーストーンをはめる。
「キーストーン装着、メガシン……くっ!」
 その時の閃光の眩しさといえばなかった。
 クレッフィの身体より、滑るようなひみつのコハクより、コルニの金髪より、なによりも眩しい光。
「焦らないで。今はメガシンカのことだけ考えて!」
 ティユールの声を聞き、サルビオは猛る思いを振り払った。育った町シャラシティが脈々と受け継いできた秘術を、自分もまた継承するために。
 気づいた時には、サルビオの息が上がっていた。そして、目の前には、以前見たディルのような、サルビオのメガプテラがいた。
「……メガシンカ、完了」
 それを見たティユールとディルは歓声をあげる。メガプテラがサルビオに抱き着こうとした時、あまりの疲労にサルビオは後ろ向きに倒れてしまう。
 そんな一人と一匹を、柔らかい砂浜が受け止めた。

「さて、次なる課題は」
「え、メガシンカできたじゃないですか」
「あのねえ、それは私がキーストーンとメガリング、それからプテラナイトを貸したからでしょ? 自分のがないと、いつでもメガシンカできるようにならないでしょ」
「あっ」
 そういえばそうだ、とサルビオは思う。それを見ていたディルが笑った。
「今のところ、メガリングはともかく、キーストーンとプテラナイトを手に入れる方法はただ一つ。マスタータワーのメガシンカおやじ……コンコンブルさんに貰うこと」
「は? マスタータワーって……」
「だって、二つの宝珠はオーパーツ……太古の昔、誰かが遺したものって言われてるもの。メガシンカできるレプリカを精製する研究はまだ完全じゃないし、純正なものは今のところマスタータワーにしかない」
「嘘だろ……」
 サルビオはそう言うが、隣にいたプテラは大きく頷いた。
「おい、プテラ」
「プテラは行く気みたいだけど?」
「……わかった、行きます。その、コンコンブル、さん……にお願いしたらいいんですね?」
「うん。サルビオくんにならきっとくれるはず」

 ティユールに後押しされ、サルビオはその奇妙奇天烈な建造物の門の前に立った。振り返ると、ティユールが親指を立てている。もう戻れない、と思い、サルビオはプテラとともに門をくぐった。
 コンコンブルは、大体入ってすぐ正面の部屋にいる……と聞いていたが、サルビオはまず、マスタータワーを貫くような高さのルカリオ像に目が釘付けになった。
「……」
「どうだ、すごいだろう」
 言われて、サルビオははっとする。目の前には、自分と同じぐらいの身長の老人がいた。顔のパーツが、コルニを思い起こさせる。この人で間違いないと思い、サルビオは話しかけた。
「あの、コンコンブルさん、ですよね」
「気軽にメガシンカおやじと呼んでくれ」
「は、はい。メガシンカおやじさん、実はティユールさんに言われて……」
 サルビオがことのあらましを説明すると、コンコンブルは表情を明るくし、すぐにキーストーンと「プテラナイト」、それからサルビオの腕に合うメガリングを取り出した。
「若いもんに継承してもらえるとは。実は君のことはティユールから聞いていてな」
「えっ、ティユールさんから?」
「ああ、いずれこっちに来るだろうと」
 ティユールははじめから自分に行かせる気だったのか、とそこで気がつき、敵わない人がまた一人増えたと、サルビオはひとり思った。
「プテラとずっと、仲良くな」
「ありがとうございます」
 言うと、おじいちゃーん、という掛け声が階上から聞こえてきた。なんとなくまずい、と思ったサルビオは、では、と言ってすぐに門を出た。
「誰かきてたの?」
「ああ、プテラを持ったトレーナー……格闘使いのお前にはちょいと厄介かもしれんな」
「……あの子って……」
 コルニはサルビオが去った門を見つめた。そして、まさかね、と言って、コンコンブルに要件を話し始めた。

 門の階段も全て下りて、改めてサルビオはそのマスタータワーを見上げた。
 その時、なんとなくだが、このタワーはあのルカリオ像を守っているのだという錯覚に見舞われる。
「コルニ」
 サルビオは幼馴染の名を呼んだ。その声はただ、広い海と空に消える。
「幸せであれ」
 言って、また前を向く。石の町シャラシティは、今日も太陽の光を受けて輝いていた。


 本藤遥さん宅ティユールさん、全編にわたりお借りしました。
 140510 ⇒アンサンブル・プレイングII 本編