忘れられた場所


 ミアレの有名人ならほぼ誰のことも知っているサルビオだったが、読者モデルのメイアを見つけることはできなかった。明るい髪に一度見たら忘れない切れ長の瞳。有名人が通る道を重点的に探せば、すぐ見つかると思ったのだが。
 まあいい、ほんの少し顔が印象的だったから気になっただけだ、と思い、メイアはまた、と呟いたその時だった。
「今、メイアって言った?」
 やばい、聞かれたか、と一瞬びくつきつつも、すぐに平静を装って振り返る。そこにいたのは、おさげの黒髪が少し重い印象を与える少女だった。
「ああ、確かに言った」
「読者モデルのメイアよね? どう思ってるの」
「どう思ってるのって……」
 彼女の様相を見て、サルビオは、よくいるアンチかと思った。眩しい世界で活躍しているモデルに嫉妬するタイプの少女。
 だから、ついサルビオは口を滑らせてしまう。
「表情は硬い、ポーズ研究も足りない。まあ読者モデルに求めることではないかもしれないが――」
 そこまで言った時、彼女の表情はまるで凍りついたようだった。思い違いか、と気づいてサルビオは本能のまま逃げ出す。
「あんた!」
「別にいいだろ、いちモデルをどう思ってるかなんて」
 念のため、と思い、サルビオはプテラを出し、飛び乗った。これで振り切れる、と思ったら、大通りから元気な声が襲ってきた。
「サッ、サルビオー!」

 ○

 ザリスト、彼はそういう名前なの、と彼女は繰り返した。
「うん、間違いないと思う。ただ、どこにいるかはわからないっていうか……ん?」
 テルロは彼女の肩越しにいつか見た人のシルエットを捉えた。
「サッ、サルビオー!」
「げ」
 プテラに乗っていたサルビオは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「ちょっと話があってさー! ザリストって今どこにいるー!」
 訊けば、サルビオはすぐにメモを書き、ミアレ上空から落とした。人ごみにのまれる前にそれを追いかけ、どうにかキャッチする。
「ザリストのホロキャスター番号だ。あいつが何してるかなんて俺も知らん」
 言って、サルビオとプテラは何かから逃げるように飛び去った。
「仕事中だったかぁ。あ、おーい、ここだよ、ここ!」
 テルロは、メモを取ったところから彼女を呼ぶ。
「私はサザンカ、そのまま呼んで」
「そっか、僕はテルロ。なんとかそいつのホロキャスター番号手に入ったから、連絡してみるか」
 テルロはすぐに番号を打ち込んだ。誰だ、ああ、いつかのテルロ、と言うザリストが空に浮かんだとき、この人だ、とサザンカは指差した。
「彼女……サザンカが君に用があるんだと」
「はい。……あなたね、私のオーパーツ盗んだの」
「えっ……あ」
 ザリストは、あのオーパーツ集めの日々を忘れたわけではない。ニダンギル、そしてサメハダーとともに、ほとんどは自然界から見つけたものだが、中にはトレーナーから盗んだものもあったのだ。
「どこにあるの。返してほしいんだけど」
「……すまん。あれは、……アジトにあって」
「アジト?」
 返されて、ザリストはこめかみを掻いた。
「このままじゃ全ては話しにくいな、フラダリカフェの前に来てくれないか」
「わかった。でも、フラダリって、フレア団のボスだった人の名前よね」
 訝しむサザンカを見て、テルロが明るく声をかけた。
「大丈夫、ザリストは信用できるやつだぜ、今は」
 今は、と言われザリストは画面越しにテルロを睨んだが、彼とて返せる言葉はない。
「じゃあ、フラダリカフェで」
 そこでホロキャスターは切れた。
「カフェまでの道はわかる?」
「奇抜な見た目だからわかるわ。テルロ、ありがとう」
「どういたしまして。君みたいなマドモアゼルのお役にたてて嬉しいよ!」
 そこで二人は別れた。


 歌多ねここさん宅サザンカちゃんお借りしました。
 140516 ⇒NEXT