円と縁


 一応あなたの言い分も聞いておくけど、と、サザンカは口を開いた。
「オーパーツ集めて何に使ったの」
「とてもじゃないが言えん」
 双子の妹を見つけ出すために、フレア団の野望に加担するうえで、最終兵器の埋没地を探すため。
 口が裂けても言えないことだった。
「色はどんなだ」
「燃えるような赤」
「これとかか?」
 ザリストは先ほど見つけたオーパーツを見せた。オレンジ色の宝珠の中に赤と青の線が浮かぶ。
「……青い線は入ってなかった」
「そうか」
 見つけたオーパーツを順番に並べていく。ポケモンのさらなる力を発揮するその石は、キーストーンを持つ持ち主のもとから離れて力も弱まっているようだった。
「この色……ガブリアスか?」
「こっちはアブソルっぽいかも」
 全てをトレーナーから盗んだわけではないから、どのポケモンとぴったり合う石なのか、ザリストにもわからないものがある。サザンカの石を探しながら、二人で推理する時間も充実しているといえばしていた。
「サルビオのほうが詳しいんだろうな」
 ザリストの小さな呟きにも、サザンカは反応した。
「サルビオ……確かホロキャスターの番号をくれた。どういう関係なの?」
「双子の弟だ」
 ああ、なんとなくわかる、とサザンカはひとつ頷いた。
「彼に居合わせたとき……私は少し遠くにいたから全部聞こえたわけじゃないけど。あいつが何してるかなんて俺も知らん、ってこと言ってた気がする。あんまり会ってないの?」
「わりと色々訊いてくるな」
 そう言ったザリストも、オーパーツを探す手は止めない。次に見つけたのは黄色の石だった。
「……いいよ、石を盗んだのは俺だ、話す。もとはといえば……双子の片割れを見つけるためにオーパーツを集めていたんだ」
「……ほう?」
「フレア団の野望に加担しながら、自分が何者であるかを見つけるために」
「自分が、何者であるか」
 サザンカは胸にそっと手を当てた。その様子を見ながらザリストは思う。
 オーパーツを所持するほどのトレーナーでありながら、彼女の姿はあまりにも儚い。
 大抵の行動には理由がある。ザリストの行動も端から見れば悪行ではあるが、彼女もそれを理解したうえで一応受け入れてはくれているのか、と幻想を抱く。
 そうこう話している時だった。
「あれ……! 扉の向こうの」
 サザンカがドアの下の隙間を覗き込んだとき、彼女にとって懐かしみのある赤色が目に入った。
 しかし、隙間が狭すぎて人間の腕は入らない。
「ギルガルド。頼む」
 ザリストはそっとギルガルドを出した。
「お前のその腕で届かないか」
 言うと、ギルガルドは大切な盾をザリストに預けた。ザリストはそれを両手で抱える。
 すっと、扉の下にギルガルドの腕が伸びた。もう少しで届く、と思うや否や、ギルガルドの腕は鋭い攻撃を受けた。
「扉の向こうに誰かが……!」
 盾を持たないギルガルドは苦しそうに呻きながらも、掃くようにしてオーパーツをこちらがわの部屋へ誘導した。ザリストたちはオーパーツをかき集め、一目散にアジトから逃げた。

 確かにこれだ、と、左手でオーパーツを持ったサザンカは言った。右手は怪我をしたギルガルドの腕を撫でている。
「それじゃあこれで。色々気を付けるのよスパイ君」
「俺はザリストだ」
 サザンカは去り、その場にはザリストと大量のオーパーツが残された。噴水広場の縁に座り、盗んだものと自然界からとってきたものを記憶を頼りに仕分けていると、手を滑らせてひとつオーパーツを落としてしまった。
「あっ」
 ころころ、ころころ、オーパーツは転がる。転がった先は白い手だった。ザリストが見上げると、そこにはザリストと同じ歳ぐらいの女性がしゃがんでいた。
「何この石、きれいね」
 彼女はそう言っただけでオーパーツに別段執着もせず、ザリストに返そうと歩み寄る。
 そのとき、あら、と彼女が言った時には、噴水のほうに身がぐらついていた。
 ばしゃん、とオーパーツが水に浸かり、ザリストは彼女を片手で抱きかかえていた。彼女の顔が水面に映る。
「気をつけろよ」
「……ありがとう」
 彼女を縁に座らせてから、ザリストは水に落ちたオーパーツを拾って巾着袋に入れた。彼女が袋の中を覗き込む。
「こんなにたくさん」
「俺のじゃないけどな。今から持ち主に返すところだ」
「ひとりで?」
「……」
 面倒なところを突かれた。
 サザンカといい、この若草色の髪をおさげにしたどことなく良いとこ育ちの女性といい、今日は誰かに何かしらを突っ込まれる日だ。
「私はジャスミン。さっきはありがとうございました。私でよかったら、石をお返しするのお手伝いしますわ」
「は? ……いや、石拾ってくれたしおあいこだろ」
「私がしたいのですよ。できることは多いと思いますよ」
 そう言った彼女、ジャスミンを、ザリストは改めて見つめた。口調といい、どこかの令嬢であることは違いない。それでできることといえば――やはり人脈だろうか。
「……わかった、頼む」
 これもひとつの縁だと思って、ザリストはジャスミンにそう答えた。


 歌多ねここさん宅サザンカちゃん、終日さん宅ジャスミンちゃんお借りしました。
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