特ダネ依頼


 幸運にも、何度も「幻」と呼ばれる存在との邂逅を果たしてきていたから、この感覚の正体もすぐに掴めた。
「出たな、ボルケニオン!」
 青年はさして取り乱すこともなく、浅黒い手でモンスターボールを掴むと、さっと投げて見せた。
「ねーお!」
「……ネオラント。炎技が来ようと水技が来ようとも大したダメージにはならない。……“凍える風”!」
 ネオラントは青年の指示通りに技を繰り出した。ボルケニオンの動きが鈍る。
「そうして、動きを抑えて。来るべき技は……」
“スチームバースト”。勢いよく水を噴射する技だ。これならば動けずとも問題はない。
「迎え撃て。“波乗り”!」
「ねおねおー!」
 水の塊どうしがぶつかり合い、耳をつんざくような破裂音を青年が襲った。さらに、ものすごい濃度の霧が視界を奪う。
「ネオラントー! いるかー?」
「ねーおねお!」
 ネオラントがまだ傍にいることを確認し、青年はもう一匹のポケモンを出す。
「あたりを照らしてくれ、ウルガモス!」
 ウルガモスはボールから出るやいなや、旅人を導く太陽のような光を放つ。そうして青年の視界に映ったポケモンは、ネオラントだけだった。
「「火山灰で 地上が 真っ暗に なったとき ウルガモスの 炎が 太陽の 代わりに なったという」……さすがだな。だが……ボルケニオンには一歩及ばずか」
 青年がひとりごちた。ネオラントはすいすいと青年のもとに戻り、不安そうに彼を見上げる。
「幻と呼ばれるポケモンだ、一筋縄ではいかないことはわかっている。行くぞ」


アンサンブル・プレイングIII
〜曼荼羅の西遊〜


 以上、ボルケニオンに関するマル秘メモでしたー、と、ミアレ出版の先輩に言われた時、サルビオは怪訝な顔をした。
「それ、マル秘なんですよね? どうして私に」
「あなた、非正規雇用とはいえ、毎度毎度我がヴァンドルディにスクープを提供してくれるんだもの。ちょーっと幻のポケモンの話もしたくなっちゃうじゃない」
「私に幻のポケモンを追えと?」
「ま、それもあるかもね」
 十割それだろ、とサルビオは内心思った。
 サルビオは元来パパラッチで、ミアレ出版から出ているゴシップ誌『ヴァンドルディ』に、度々有名人のあらぬ姿を提供してきた。それを編集部が評価し、少しずつゴシップ以外の撮影も任されるようになったのだが――
「ボルケニオンといえば、水蒸気爆発を起こすとかいって危険だとされてますよね」
「そう。だから誰もやりたがらないのよー。でも、あなたなら口の堅いクレッフィ、素早く飛べるプテラ、霧立ちこめる環境に強いフラージェスと協力して、なーんとかしてくれるんじゃないかってね。同業他社も特ダネを狙ってるわけだし」
 同業他社も狙っている。
 それを聞いて、サルビオは決意した。相当難しい依頼だが、間違いなく金になる。
「わかりました、やりましょう。ただし、私は非正規雇用です。いくらミアレ出版に恩があるといっても、情報を一番高く買い取ってくれなければ、たとえスクープが撮れてもお譲りしませんよ」
「わかってます、でもミアレよりあなたの情報を高く買う出版社はない。今回もよろしくね、サルビオ・オブライエン」


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