はみだし者の苦労


 イロモノ、という立場に甘んじていた。そうでないと今の人気がないこともわかっている。
 人一倍努力して技術を磨いても、周りの団員からすれば、「あいつは上手いのが当たり前」。今更褒めてくれる人がいないことは知っている。そういうところも含めてプロの世界だ。  ただ、それでも。
 「尊敬しています」と、「グランジュッテが大好きで」と、あそこまで感情をぶつけられた経験など随分久しいものだった。そう言った彼はまだミアレバレエスクールのアマチュアだというから、若さがなせることなのかもしれない。

「え、あの子気になるの?」
 特に信頼しているダンサーに、ハルンは身振り手振りと声色で伝えた。彼もあの場に居合わせていた。
「サーナ」
「あいつはテール・ロゼ・ブアン。テルロって呼ばれてるらしいぜ」
「サナナ……」
「そうそう」
 ダンスはまだまだ荒削り。ミアレシティの娯楽に目を光らせつつも、いつだって一番好きなのはバレエ。
 ハルンがテルロのことを知ったのは、その時だった。

 ○

 その日のフラダリカフェには、フレア団ボスのフラダリの他に、二人の女性幹部がいた。
 デイジーとジンジャー。二人ともよくフラダリの隣にいるし、見た目が普通の女性であるから、フラダリカフェにおかしな印象を持たせないカモフラージュ役にもなる。
「ザリスト、なんであんたがここに」
 ジンジャーが棘のある声で言った。
「フレア団のボスが呼んでたからだよ……」
 あえて、フレア団の、と言ってフラダリを見る。ジンジャーは団員の中でも特にフラダリを慕っていて、正式加入もしていないのにフラダリからじきじきにミッションを命じられるザリストを目の敵にしているのだ。
「いいじゃない、ザリストくんが集めてる宝石きれいだし」
「宝石じゃなくてオーパーツ」
「あ、そうだった」
 デイジーは誰と話していてもマイペースだ。ザリストともつかず離れず、ただ少しねじが外れている。
「……今、俺のサメハダーがヒャッコクシティ付近を散策中です。もうすぐ計画も遂行できるかと」
「ご苦労。団員ではないからと一人で行動させていたが、計画も大詰めだ。デイジー、ジンジャー。その時はザリストと行動しろ」
 は、というジンジャーの気の抜けた声を、デイジーの、はい、という返事が隠した。仕方なくジンジャーは返事をして、ザリストをぎっと睨みつけた。
「よろしくお願いします」
「くれぐれも、足は引っ張らないでねー」
「そこは上手くやりますよ」

 伝説のポケモン、ゼルネアスを見つけたら、自然の力を味方にしたそのポケモンに、妹の場所を教えてもらう。あとはフレア団がどうなろうが、知ったことではない。その時、フレア団との契約を解消するのだから。
 ザリストは、いつもより丁寧に、だが焦る気持ちは常に抑えながら、ニダンギルの刃を研いでいた。
「……もうすぐだ」
 誰にも邪魔をされたくはない。それならば、ニダンギルにももっともっと攻撃力を上げてもらわなければならない。
 刹那、ザリストは指を切った。浅かったから出血は少量で済んだが、ニダンギルは不安そうな表情をする。
「このぐらい、すぐに治る」
 そう言って、ザリストは指を舐めた。


 黄泉さん宅デイジーさん、めあさん宅ジンジャーさんお借りしました。

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