そこは、道も仕切り壁もない、ただの大部屋だった。
中央には財宝が積み重ねられ、その上には王冠が置いてあった。
「これが、建国伝説にもある……」
カグロは触れようとしたが、数百年の時を経てもなお美しい王冠を目の前で見ると、自然と手を引っ込めてしまった。
王冠から目を離すと、部屋の奥に、またあの文章を見つけた。
四文字分前にずらし、ゆっくり読む。
「王は……たった一人で、……をはねのけた。……は、すぐに……王の仲間となった……。王は、……を生き物と呼んだ。王は私たちの希望であり……未来そのものだ。ここに、偉大なる、王………を讃える……」
カグロには、全てを読み解くことはできなかったのだ。
この文章の固有名詞には、それぞれ唯一の記号が用いられていたからだ。
見たこともない四つの記号のうち、「王」の名を表す一つを、カグロは指でなぞる。
王族のみに伝わる文字なのだろうか。
となると、本当にこの謎を解くべきだったのは。
結局、自分は「部外者」であるならば。
「「王」の子孫は……まだイッシュにいるのか……?」
「ネオ……?」
サザナミ湾に太陽は沈まない。
静かな群青の海から目をそらすと、リバースマウンテンの後ろに隠れかけの太陽が見えた。
「探したよ」
太陽から目線を下ろすと、カグロの目の前には、夕焼け空に消えそうな色の髪をした青年がいた。
「あなたは……ヒウンシティの」
「覚えてくれてて光栄だよ。カグロくん」
「なぜ名前を」
「驚いたよ。偶然立ち寄ったバトルサブウェイじゃ、キミのことが噂になってて。キミは才能があると思っていたけど、こんな早くにスーパートレインを全て制覇していたなんてねぇ。今すぐ欲しいところだけど」
「……?」
青年は、続きは言わずに、カグロに一歩近づいた。
「ところで、メラルバは?」
「元気も元気ですよ。今はウルガモスですが」
カグロはボールをかざし、ウルガモスを出す。ウルガモスは元気に輝いた。
「はは、もう夜だよ。眩しいなぁ」
青年はそう言ってウルガモスをなでる。ウルガモスは全く抵抗しなかった。
「よく育てられているね。キミに託して正解だったよ。それで、キミ、これからは? もうサブウェイ行っちゃったみたいだし、ワールドトーナメントの開幕はまだ先だし」
「……気になることがあって、しばらく滞在しています。後の予定は決めていませんが」
本当は、海底遺跡に入ってしまえばそれで満足なはずだった。だが、読めぬ四文字がどうにも心残りだったのだ。
「それじゃ、そんなキミに、オーレコロシアムをお勧めしておくよ」
「オーレコロシアムって、あの……砂漠の?」
「ああ。あそこはほとんどポケモンがいないのに、なぜだか凄腕のトレーナーが集まる。そこに……ワタシが鍛えたトレーナーもいる」
最後の言葉に、カグロは目を見開く。それを見て、青年は強気な笑みをこぼした。
「まあ、考えてみて。オーレコロシアムは、ここから陸続きに、ずーっと西に行った場所……オーレ地方にある」
オーレとイッシュが陸続きかどうか公式で説明はなされていませんが、まあどっちもアメリカなので夢見させてください。
The Next Story is...
⇒聖なる山、バトルの申し子(カグロinオーレ)