+ 第9話 みんなのこころ +


「どうして……どうして、こんなことになってしまったの?」
「……」
 リリーとノアは、東へ重い足取りで歩いていた。
「もう私、誰にも信じてもらってないんだね」
「何言ってるのさ! ボクはずっとリリーのこと信じてるよ」
 ノアは元気づけようとしてくれているのだとリリーにはわかった。だが、ノアの声もかすかに震えていた。
「あの時……」

「やめてーーーーーー!」
「ケッ! なんだよ! 私は違います、ってか? どこに証拠があんだよ?」
「……証拠なんてない」
「やっぱりそうなんじゃないの!」
「でも、それでノアを攻撃するなんて、許せないんだから!」
 リリーはそう言ってから踵を返し、ノアを連れて一目散に走っていった。
「皆、追いかけろー!」

「私って、なんて情けないんだろう。どうして人間の時の記憶がないんだろう」
「リリー。……あ、ほら、“群青の洞窟”が見えてきたよ」
 ノアが指差した方には、サファイアのような青い石でできた洞窟があった。
「待てー! どこへ行った!」
 追いかけてくるポケモンたちの声が聞こえて、リリーとノアは洞窟に入った。
「フーディン! あいつらはどこへ行ったんだ?」
「私の読みが正しければ、群青の洞窟に入ったはずだ」
「よし! 群青の洞窟だ! 駆け込め!」
 多くの救助隊が洞窟に駆け込んだ。だが、走っている途中、リザードンは気がついた。フーディンの表情に。
「おい、隊長、なんでそんなに辛そうな顔をしてるんだ?」
「……」
「言ったじゃないかリリーたちに。背中に言葉をぶつけたじゃないか。『今日一日は逃げる時間をくれてやる。だが次会った時は必ずお前たちをやっつける』と」

「皆、追いかけろー!」
「待て!」
「フーディンさん……」
 このあたりではトップの救助隊、FLBには誰も逆らわないし、逆らおうとしない。
「今日一日は逃げる時間をくれてやる。だが次会った時は必ずお前たちをやっつける!」
 その声はリリーには聞こえただろうか。
「ケッ! 勝手なことを」

「そうだぞ隊長。リリーをこの世界から追い出すことこそ広場の平和なら、協力するしかないんだよ」
 話を聞いていたバンギラスが言った。
「お前たちは、わかっていない。何もわかっていない」
「え? 隊長、何か言ったか?」
「いや何も。洞窟に向かおう」

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