+ 第13話 雪原の使者 +


「ううっ……寒いよう……」
「随分寂しいところに来たね。あっちの森にはポケモンはいるのかな」
「いるんじゃないのかな? こういうところが好きなポケモンもいると思うし」
 あたりは銀一色。リリーとノアは、雪にずぶりと嵌ってしまう足を何とか上げながら、ひたすらに前へと進んでいた。
「あ! ガルーラ像だ! ここでご飯にしよう」
 ガルーラ像。世界各地に置かれている像で、広場のガルーラおばちゃんの倉庫とつながっている。
 リリーたちは、ガルーラ像にもたれて座った。ガルーラ像には、“この先 樹氷の森”と書かれていた。
「寒いところでも、やっぱりりんごは美味しいね。リリーもいるし!」
「ノア……ありがと。でもあんまりゆっくり食べてられないね。この先は森みたいだし、食べ終わったらここに入ろうか」

 森だから歩きにくい、ということはなかった。木の影になっているところには、雪があまりつもっていなかったのだ。
「やっぱり、ポケモンはいるね。“火の粉”っ!」
 ノアが戦っていた相手はオオタチだった。まわりが雪であるため、炎の技がいつもより効果があった。
「やりー!」
 今は全てのポケモンが敵だが、やはりポケモンに出会えると生きている感じがしたのだ。それはリリーも同じであった。

「あれ? なんだか焦げ臭くない?」
「ほんとだ……あっ!!」
 リリーが指差したところには、燃えて倒れかけている木があった。そしてその影にはポケモン。
「危ないっ!!」
 リリーは、気づかぬうちに走っていた。影にルリリがいて、倒れるのを怖がっていたのだ。
 リリーがルリリを押した時、木はめりめり音を立てて倒れた。
「間に合った……かな」
 リリーは得意の高速移動で、ルリリを助けた。ルリリは下敷きにならずにすんだ。
「よかった……」
「だめじゃんノア。これから炎技を使う時は、まわりに気をくばらないとね。あ、君大丈夫だった?」
「わかんない」
「え? どこか痛いの?」
「わかんない。あなたたちがわかんない。どうしてボクを助けるの? ボクが敵だってこと知ってるでしょ?」
「……」
 リリーは今は逃亡中の身だ。たとえ誰かを助けても、それは誰にも喜ばれない。

 ルリリと別れて、リリーとノアはまたふたりぽっちになった。敵のポケモンもこのあたりにはいない。
「忘れたくなかったの」
「え? リリー、何か言った?」
「私が救助隊だってことだけは、忘れたくなかったの。だれかを助けたい。それだけなの。ルリリを助けた時だって、それだけで行動したの……」
「リリー……。はは、やっぱりリリーはすごいや! ボクたち、いつだってチーム『RUN』だもんね!」
 リリーはにこりとした。何かがふっきれたように。

「全て見ていました。見事でしたよ、あなたたち」
 リリーとノアはその声に振り向いた。そこに立っていたのは、なんとキュウコンであった。
「あなた……ひょっとして伝説の……」
「伝説をご存知でしたか。ですが私はその伝説のキュウコンではありませんよ。伝説のキュウコンは人間とポケモンが共存する世界にいるのですから」
「あ、そっか」
 キュウコンはリリーたちが真上を見上げながら会話をしているのに気づき、立っていた岩から下にトンとおりた。
「あなたたち、なぜここに来たのですか?」
「自然災害の原因をつきとめるためです」
「なるほど……。では、あなたたち、<世界の審判>はご存知ですか?」
 キュウコンは急に深刻な表情になった。リリーもノアも、<世界の審判>という言葉は初耳だ。素直に首を横にふる。
「世界の審判というのは、ポケモンでも人間でもない存在。この世界と、共存世界を繋ぐ管理者とでも言っておこうか」
「キュウコン、しゃべりすぎるな」
 すたっ!
「わっ!」
 リリーとキュウコンの間に、アブソルがしなやかな動きでおりてきた。
「私はアブソルのヴォルガ。<世界の審判>に仕える者だ」
「ヴォルガ、来ていたのか」
 キュウコンと、ヴォルガと名乗ったアブソルはどうやら知り合いのようだ。
「自然災害が起こっている原因は、<世界の審判>と深く関係しているのだ。あまりしっかり説明はできないのだが……」
「はあ……」
「ヴォルガ、それならいっそこの者たちについていったらどうか? 何かの感情が私に働きかけているのだ。この者たちが、世界を救うと」
 この者たち、とはリリーとノアのことだ。それを聞いて、リリーたちは驚いた。
「私たちが、世界を救う存在!?」
「はい。何なのかはわからないのですが、あなたたちとこの世界の未来がはっきりと見えるのです。さあ、行きなさい、胸をはって」
「では、私ヴォルガは道案内をするためについていこうと思うが……いいかな」
「はい」
「頼もしいです」

 キュウコンとはそこで別れた。これからは、リリーとノアとヴォルガとの旅になる。
「やはり似ていたな……あなたはリリー、そうでしょう。あの子にそっくりでしたから。

 あの子……ヒイラに」

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