+ 第15話 鏡の自分 +


「天空の塔……」
 今、この場には、リリー、ノア、ヴォルガ、それにフリーザーしかいない。
 すなわち「この者たち」はリリーとノアのことである。
「リリー、ちょっと地図貸して!」
 ノアは、リリーにぼろ切れのような地図を借りた。
「これですよね?」
 ノアは、地図中の薄くなっていてほとんど見えない塔のようなものを指差した。
「そのとおりだ」
「じゃあ、どうしてボクたちが……」
「“天空の塔”は、<世界の審判>に最も近い場所だからだ。

 <世界の審判>は、世界のあらゆるもののコントロールをなされているのだが、今は会話も出来ないほどに弱っていらっしゃるのだ。
 今現在、「重力」のコントロールが利かなくなっている。
 だから、近くの星がだんだん迫ってきている。
 その星の重力によって、世界のバランスがくずされ、自然災害があちこちで起こっている。
 私たちは、もう待つしかない。星が衝突し、世界の破滅を待つしかない。そう思っていた。
 だが、いたのだ。世界の破滅を止めることができるポケモンが、天空の塔にな。

 ポケモンの名は……レックウザ。

 そのポケモンに頼んで、その星を破壊してもらうのだ。すると自然災害は収まる。それが最良の方法なのだ」

「てんくうのとうの……レックウザ……」
「そしてその塔に行く方法は、フリーザー・サンダー・ファイヤーの力で、ひたすら空を飛ぶ……おまえたちなら、乗っていける」
「よし、では早速呼ぼうではないか。サンダー! ファイヤー!」
 フリーザーは、何とも言えぬ不思議な声で、鳥ポケモンたちを呼んだ。
 すると、サンダーとファイヤーがものすごいスピードで飛んできた。
「やってきたぞ!」
 リリーたちは焦っていた。天空の塔に行く? 私たちが?
「あの……私たちとレックウザの手で、自然災害を収めることができるのですか?」
「ああ、星さえ壊せれば……な」
「ノア、行こう。ずっと自然災害を収めることが目的だったんだ」
「リリー……わかった。フリーザーさんたち、ボクたちを乗せていってください」

 フリーザーたちは、えもいわれぬ速さで空をかけ昇った。
 リリーたちは、疲れと睡魔に襲われて、いつのまにか眠ってしまった。

 リリー、起きて。
 お願いだよ。もう……半年も眠りっぱなしで……おばちゃんたちも、諦めてるみたい。
 お願い、起きて!! リリー……!!

「はっ!」
 リリーは感じた。大いなる峡谷で聞いた、あの声だ。
 一体何なんだろうと、思い巡らせた。
「リリー……」
 また声が聞こえた。今度はサーナイトの声であった。
「久しぶりね、リリー」
「サーナイトさん?」
「このひとが!?」
 それはノアの声であった。ノアも起きていたのだ。
「ついにここまでたどり着きましたね。この塔に登って、星を壊すことができたら、あなたは元の世界に還ることができます」
「え?」
 すっかり忘れていた。元の世界。リリーが人間だった頃に住んでいた世界。
「でも、そんな……」
「リリー、さっきまで、女の子があなたを呼んでいる声が聞こえませんでしたか?」
「……はい」
「その声は、人間の世界で眠り続けているリリー、あなたを心配して泣いて呼び続けている女の子の声です」
「……」
 女の子。リリーはほとんどの記憶をなくしてここに来たため、今となっては知らない女の子だ。だが、その女の子の声が懐かしく聞こえる。それだけは確かであった。
「あなたがここに来て半年。そしてあなたが眠り始めて半年。世界の時間軸は同じです。自然災害をおさめて、すぐに人間の世界に戻らないと、人間の世界ではあなたは死んでしまったことになるのです」
「死……」
「よく考えておきなさい。ですが、今は自然災害をおさめることに集中するのです。それでは」
 プツン!
「あっ!」

(サーナイトさん……)

 大丈夫。私はあなたを信じているわ。ヒイラの娘、リリー。

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