+ 第16話 めくるめく感情 +


「ここだ……」
 一行はついに“大いなる峡谷”の、精霊の丘にたどりついた。
 一行とは、すなわち、キャタピー、トランセル、ディグダ、ダグトリオである。
「ボクたちでも、行こうと思ったら行けるんだね」
「大変な道のりだったけどな……」
「遠いところに行ってしまったリリーさんたちのことを知るには、もうここしかないからね……」



「おまえたちは……私たちをずっと追っていた者だな!?」
「……ああ、そうだが」
 “氷雪の霊峰”の頂で、ヴォルガとチームFLBが顔を合わせた。
「ならもう、リリーの運命は知っているのだな?」
「いや、かなり距離をあけていたし、この雪でほとんど見えなかったが」
「彼女たちは、自然災害をおさめるために“天空の塔”へ行ったぞ」
 FLBは絶句した。“天空の塔”といえば、ゴールドランクのポケモンでも攻略は難しい、と云われているダンジョンである。
「……大きな勘違いをしているようだな。世界の審判と共にこの世界を見続けていた私は知っているぞ。お前たちは、リリーたちが存在すること自体が自然災害だと考えた。だがそれは大きな間違いだ。実際には、リリーたちが自然災害をおさめ、この世界を救う者なのだからな」
「……」
「知っていたのではないか? フーディン」
「!」
「そんなっ……」
 ヴォルガは、堂々とした態度を崩さない。フーディンはヴォルガの眼差しに少したじろいた。
「……ああ、知っていた。超能力で、リリーの心情を知っていた」
「じゃあ……隊長ははじめから知っていたのか!? リリーが濡れ衣を着せられているということを!」
「ああ……」
「なぜ、なぜ伝えてくれなかったんだ!」
 リザードンとバンギラスは、フーディンにつめ寄った。フーディンは一つ深呼吸する。
「あの場でリリーの味方についていたら、どうなるかわからなかった……。結局は、ゴールドランクを持っていようとも、心の強さではリリーとノアに負けるということだ。リリー……彼女は逃亡中、味方がもうほとんどいないこの世界のために自然災害の原因を探った。ノアはそんなリリーを信じて、いつも心の支えになっていたのだ。だから……あの言葉を投げたんだ」

「今日一日は逃げる時間をくれてやる。だが次会った時は必ずお前たちをやっつける!」

「……そうだったのか」
 ヴォルガは言った。
「フーディン……おまえなら、この場にいながらリリーを援護できるかもしれん」
「なんと……!」
「おまえに……頼みがある」



 リリーとノアは、下界でそんな会話がされていた頃、“天空の塔”を上り始めていた。
 周りは敵だらけであった。壁の中にもぐりこむ敵もいた。だが、仲間になってくれるポケモンもいた。塔のポケモンたちは、下界で起こっていることはほとんど知らないからだ。
 リリーとノア、それに旅の道連れ、カゲボウズとルナトーンで、塔を上っていた。
「ヴォルガさんは真実を教えてはくれなかった」
「えっ、ノア、どういうこと?」
「ヴォルガさんは、確かにボクたちに、自然災害をおさめる方法を教えてくれた。でも、「ボクたちが」自然災害をおさめる理由は教えてはくれなかった」
「そういえば……!」
「リリーは人間だし、何か特別なものがあってもおかしくはないと思う。でも、何でボクは……」
「……運命じゃないのかなあ?」
 リリーはにこっと笑ってみせた。ノアは少しはにかんで、それに答えた。
「最上階まではまだまだよ。そろそろ行こう」
 ルナトーンにそう言われて、リリーたちはまた塔を上っていった。

 星の衝突まで、二十四時間を切った。

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