+ 第2話 即席救助隊、初救助 +


「あんなに騒いでたのにすぐ寝ちゃうなんて、よっぽど疲れてたんだね」
 空き家にはリリーとヒノアラシだけがいた。他のポケモンたちは各々の家に帰って、眠りについている。今、太陽はすっかり落ちているが、リリーが起きたというのを感じて、添い寝していたヒノアラシも起きたのだ。
「やっぱり、元に戻ってない」
「え?」
「ほら、言ったでしょ? 私は本当は人間だってこと。って、こんな格好で言ったってしょうがないか……」
「うーん……あっ、そうだ、もしかして君、ここに来る時に何かが起きなかった? 地震とか……」
「地震? ……そうよ、地震、地震が起きたの! でも、思い出せるのはそれだけ……」
「それだけ思い出せたら充分だよ! ボク、君が人間だってこと、信じるよ」
 地震と人間とに全く共通点を見出せないリリーは首を傾げた。
「異世界から別の生き物がやってくる時には、必ず地震が起こるんだって。さらに、その時は、こっちの世界でも、君の世界でも、地震が起きるそうなんだ。ここらで一番物知りの、ナマズン長老が言ってたよ」
 そしてヒノアラシは、ピカチュウ、即ちリリーを見かけた時に、このピカチュウは自分たちの世界で起きた地震の被害者だと思っていて、異世界移動なんて全く考えにはなかったと話した。
「でもよく考えたらおかしいよね! だって、ポケモン広場にピカチュウは住んでいないもの」
「そう……」
「でも、最近地震が頻繁に起こるようになってしまったんだ。どうしてなんだろう……?」
「うーん……私は来たばかりだから」
「でも、本当に助かってよかったよ。明日のために、もう一度寝ようか」
 ヒノアラシは、リリーに毛布を手渡す。そんなこんなで、結局二度寝になってしまった。

「たーいへーんだー!」
 ハスブレロの声で、リリーとヒノアラシは目覚めた。太陽はもう昇っていた。
 ヒノアラシは急いで空き家から出た。リリーも彼についていった。
「キャタピーが、“小さな森”で迷子になったって……」
 その言葉に、広場に集まってきた住民がざわめく。
「あの……、迷子になったって、どうしてわかるの?」
「ああ、昨日のへんなコ!」
 ゴクリンの発言に、リリーは顔をしかめてみせた。
「ごめんごめん。この世界には危ない場所がたくさんあってね、その場所の前には必ずエスパーポケモンが立っているんだ。小さな森だと、ラルトスなんだけどね。そこで、誰か迷子になっていないか、念力を使って調べるんだ。そして、迷子になった理由までわかったら、救助隊にお願いして救助してもらうんだ」
「救助隊?」
「そう。迷う場所がたくさんあるからね。それに、野生ポケモンに攻撃されて動けなくなった、迷子さんである確率が高いんだ。だからね、救助隊が必要なんだよ」
 ゴクリンがそこまで言うと、プクリンが続けた。
「ポケモン広場の救助隊は、みんな他の救助に向かっていて、誰もキャタピーを救助できないのぉ! どうしよう?」
 この広場には、チームFLB、カラミツキ、テングズ等、優秀な救助隊チームの拠点が多くある。それなのに、救助隊はどのチームも別の依頼のために留守なのだ。
「じゃあ……ボクがいくよ」
 あたりはさらにざわめいた。その勇気ある発言をしたのは、ヒノアラシだった。
「で、でも、あんたは、広場の同年代のポケモンたちと、遊び程度にバトルする程度だろう? 大丈夫なのかい?」
「ボクより年下のキャタピーに、森に入る勇気があったんだ。ボクが助けたい」
「うーん……、気持ちはわかるけど、あんただけじゃ大変よ」
 途端ヒノアラシは黙った。周りを見渡すが、他に名乗りをあげる者はいなかった。
「じゃあ……私にも行かせて!」
 その様子を見たリリーが、勇ましく一歩前に出た。
「ええっ!? あなたは、昨日ここに来たばっかりじゃないの」
「……お礼をしたいんです。道で倒れてた私を、見つけて助けてくれた。そんなポケモンたちに、恩返しをしたいんです」
「でも……」
「ええじゃないか」
 池から何者かの声が聞こえてきて、皆一斉にそちらを向いた。ヒノアラシが話していた、あのナマズンのようだ。
 この様子だと、かなり慕われているのだろう。
「はようせんと、キャタピーが心配じゃ。店長、今回は、ただで食料と道具を渡してやれ」
「はっ、はい!」
 広場に商店を構えるカクレオンの兄弟は、店に戻って、りんごとオレンの実をリリーたちに渡した。
「ありがとう。それじゃ、行ってくるね!」

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