+ 第19話 ポケモンワールドとの別れ +


『皆の者、感謝をするぞ』
 脳裏に直接響くような声に、リリーたちは目を見開いた。リリーはあたりを見回し、そしてため息をついた。ノア、カゲボウズ、ルナトーン、レックウザ、全員無事であったのだ。
「今、誰が言った?」
「ボクが訊きたい」
『私は世界の審判。形を持たぬ。探しても声しか聞こえないだろう』
「世界の審判……! この声が、あなたが!」
『いかにも。私の力は星の破壊によってもとにもどったのだ。星が近づいてくることによって少しずつ弱っていたが、今は力がみなぎってくる。自然災害ももう起こらないであろう』
「よかった、よかった……」
 リリーたちは安心して、つい涙腺がゆるんでしまった。世界の破壊を食い止めることができたのだ。自分たちの手で。
「あれ? これは……」
 救助隊バッジが金色に輝いている。星の破壊によって大量の救助ランクがつぎこまれ、チームRUNはゴールドランクになったのだ。
「それではリリー、還る時です」
 もうひとつの声が聞こえてきた。サーナイトの声だ。
「あなたは見事役目を果たしました。今こそ、もとの世界に還る時なのです」
「還る……」
 その言葉に、ノアの目はくらんだ。
「そんな、還るって……! 世界の破壊をくい止めたのに。ゴールドランクになれたのに!」
「やめて、ノア。はじめからわかっていたことなのよ。これからのチームRUNをよろしく」
「待ってよリリー、リリー!」
 リリーの体から光があふれ出す。もう還る時なのだと、体も感じているのだろう。
 リリーはおもわず、ノアを抱きしめた。
「ノア、大好き」
「リリー……」
「ずっと大好き。絶対に忘れない。だから」

 ノアは、涙の残る顔で笑顔をつくった。
「ボクも、絶対に忘れない」
 リリーとノアは、お互いに手をさしだし、強い握手をした。少しだけ痛かった。
『ずっと想いつづけていれば、きっとまた会えるであろう。ずっと想いつづけるのだ。ずっと』
「ノア、チームRUNをよろしくね」
 リリーはまた、ノアを強く抱きしめた。それにカゲボウズにルナトーン、幻のサーナイトも加わった。レックウザはやさしい眼差しで見守った。世界の審判も、多分リリーたちに近づいてきたであろう。
「さよなら、リリー。さよなら!」
「さよなら」

 リリーは光となって、夕焼けで赤く輝く空に、消えた。

 ありがとう、ノア。ありがとう、ポケモンワールド。

 リリーは、自分の世界を目指すだけであった。
「リリーさん、退屈ではありませんか? 私もあなたの世界との境界線ぎりぎりまでお供できますよ」
 光のリリーに、サーナイトが話しかけた。
「それじゃ、お願い」
「はい。……どうしたのですか?」
「また、会えるかなって」
「会えますよ、信じていれば。私ももうずっと会っていない方がいるのですが、いつか必ず会えると信じています」
「うん。そうだよね」
 リリーの声は穏やかだった。
「リリー、そろそろ思い出したんじゃないですか? あの日のこと」
「え?」
 その声はリリーの脳裏を反芻し、何かがよぎった。
 それは、ヨシノシティでの、あの日あの時の出来事であった。
「あなたはこの世界とあの世界をつなぐ涙を拾ったのです。自然災害によって苦しめられているこの世界のポケモンの涙をね」
「それって……」
「神秘のしずくです。あなたは海に沈んでから、しっかりそれを取っていたのですよ、無意識のうちにね」
「あれが、全ての始まりだったのですか」
 全て半年前の出来事だ。それでも、今ではあの日の出来事がしっかりと思い出せる。
「私、いろいろ大変だったけれど、ポケモンワールドに来れてよかったです」

「ここから先は、私はついていけません。でも怖がらないで。すぐにもとの世界に戻れます。ずっとまっすぐに進んでいれば」
「わかりました。本当にありがとうございます」

 リリーはサーナイトと別れ、道なき道を進んでいった。
 やがて、ポケモンの声、ヨシノシティの海の音が聞こえてきた。

 ……ここだ。ついにたどり着いたんだ。自分の世界に。

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