「わーんっ、また盗まれたっ!」
「こっちもだよー!」
「うえーんっ!」
友達エリアを売っているプクリンや、住民のハスブレロが叫んでいる。もう一つ、聞きなれない声も。
「リリー、今、盗まれた、って聞こえたよね?」
「うん! 事情を聞いてみよう」
リリーとノアは、プクリンとハスブレロに話を聞きに行った。プクリンもハスブレロも、いつもよりかなり脱力していた。
「夜明けに、たまにこの広場に鳥ポケモンがやってきてねえ、ボクたちのポケや食べ物を盗んでいくの!」
ポケ、この世界でのお金の単位だ。リリーは町に馴染むとともに言葉も覚えていった。
「ひどいんだよ、ボクも広場にやってきて一晩しかたたないのに……」
聞きなれない声の主はディグダだった。
「お父さんも急にいなくなっちゃったし、もう最悪だよ!」
確かに、ディグダにとってはとんだ災難だ。
「それで、オレはりんごを盗まれたときにちょっとだけ後姿を見たけど……そのポケモン、エアームドじゃないかって」
ハスブレロが言った。鋼の翼が見えたらしく、それでエアームドだと判断した、とハスブレロは付け足した。。
「なるほど……盗むなんてひどいやつだ! エアームドはどこに住んでいるの?」
「確かカクレオンさんが道具を仕入れに広場を出た時に、“ハガネ山”の頂上からエアームドの泣き声が聞こえてきたって……」
「なるほど。よし! ノア、“ハガネ山”に行こう!」
「“ハガネ山”……一度も行ったことないなあ。他の救助隊は今いないの? どんなところか訊きたいんだけど」
リリーたちは、“小さな森”と“電磁波の洞窟”で、何度か救助活動をしてきたのだが、他の場所には足を踏み入れたことがなかった。
「でも、チームカラミツキは、今“ライメイの山”で救助活動中だし、チームFLBはもうすぐ“大いなる峡谷”に行かなくちゃならないし……」
「そっか、じゃ、ボクたちもすぐ行って、みんなの盗まれたものを取り返してくるよ! ね、リリー!」
「もっちろん!」
ところが、今回の冒険はあまりうまくはいかなかった。
「お、お腹すいたあー」
「うーん、りんごが全然おちてないね……」
「そうこうしているあいだに、野生のアサナンが寄ってきた……あ、そうだ!」
リリーは、さっき拾った“爆裂のタネ”を食べた。これは食べると、正面の敵に攻撃ができるのだ。
爆裂のタネの力で、正面にいたアサナンを倒した。
「ふう……アサナンは倒せたし、お腹はちょっとましになったし……よかった」
しかしアサナンは、起き上がった。まだ戦えるというのか。
「なんだ? まだいけるのか?」
「ち、違います、違います!」
「?」
「ワタシを、仲間にしてくださーい!」
それを聞いたリリーとノアは、びっくりして顔を見合わせた。そして、お互いうなずいて、またアサナンの方を向いた。
「大歓迎さ」
「ようこそ、チームRUNへ」
リリーたちはお腹がすくと、拾った爆裂のタネを食べながら頂上へ向かっていった。
野生のポケモンの中には、新しいメンバーであるアサナンを白い目で見るポケモンもいれば、憧れの眼差しで見るポケモンもいた。
「ここが……頂上」
「エアームドー! みんなの大事なものを盗んでるんだってなー! 出てこーい!」
ノアの声は辺りにこだまし、その声はエアームドにも届いた。エアームドはむくりと起きた。鋼色にすっかり溶け込んでいて、全く見えなかった。
「なんザマスかっ? 私はお昼寝タイムザマスよっ?」
「みんなの道具を返せっ!」
「それは出来ないザマス!」
よく見ると、エアームドの背後にポケや食べ物が置いてある。一番多いのはりんごだ。
(エアームドは“ハガネ山”のりんごをひとりじめしているんだ、だからりんごが落ちてなかったんだ)
「でも、ボクらだって困ってるんだぞ!」
「なら、私を倒してごらんなさい! 倒せたら皆さんの物はかえすザマス!」
そう言われて、リリーたちはひそひそ話をはじめた。作戦を練っているのだ。
「よし、これでいこう」
「いけー!ゴローンの石ぃぃ!」
アサナンはまだレベルが低いため、エアームドの攻撃が届かない場所でゴローンの石を投げ続ける。
「い、痛いザマス!」
そう言いながらも、エアームドは攻撃し、石をよけるため、鋼の翼で飛んだ。
(リリー、今だ!)
(うん!)
「下から上に……ひのこ!」
「上から下に……でんきショック!」
「ギャース!」
エアームドも、効果抜群の技を連続で受けたら苦しい。エアームドは倒れた。
「これとこれとこれと……これで全部かな?」
「そうだね。」
リリーたちが道具を片付けていると、地面がゆっくりと隆起した。
「……?」
「君たちがやっつけてくれたのか。わたしは、攻撃すらできなかったのに」
「ダグトリオ……さん? 広場にいたディグダさんのお父さん?」
「そうだ。本当に助かったよ」
エアームドはまだそこに倒れている。
「あ、エアームドさん!」
ノアたちは帰ろうとしているのに、リリーだけはエアームドに向かっていった。
「もう盗んだりしちゃだめですよ。それと、あの……お腹がすいていたんですよね? ほら、あなた体が大きいから……。だから私、持っているグミおいていきます。これで元気だしてください」
「……優しい子ザマスね、あんたは……」
広場に戻ってきたチームRUNを見て、みんなとっても喜んだ。チームRUNは、誰もが認める「救助隊」となったのである。アサナンは広場のポケモンにひととおり挨拶をした後、“修行の山”と呼ばれる場所に行った。
ここは広場の近くであるため、呼ばれればいつでも救助活動に行くことができるのだ。
広場のポケモンで一番喜んでいたのは、もちろんディグダだ。
「道具が戻ってきたし、それにお父さんも……とっても嬉しいです! どうもありがとうございました! お礼に『かわらわり』の技マシンをあげます! 拾い物ですけど……」
「わあっ! どうもありがとう!」
その夜、リリーは不思議な夢を見た。
『リリー、リリー……』
(ここ……どこ……? 誰かが私を呼んでる……)
『救助活動、頑張ってるみたいね……。だからその調子で、どうか、この世界を……』
そこから、不思議な声は聞こえなくなった。
「……?」
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