+ 第5話 お仕事をとっちゃダメ! +


 いつものような、気持ちの良い朝であった。
 ハガネ山に初めて行ったあの日以来、リリーは不思議な夢は見ていない。一体あの夢は何だったのだろうか。
「よし! それじゃ、ぺリッパー連絡所に行こう!」
「え?」
 ぺリッパー連絡所で何があるというのか。リリーは考えをめぐらせながらノアについて行った。
 連絡所につくと、ぺリッパーが笑顔でふたりを迎えた。
「ああ、チームRUNさん、待ってたよ。君たちももうブロンズランクになるんだね」
「えっ?」
「いつのまにか、だよね。リリー、気づいてなかった?」
「うん」
「では、ポケモン広場の救助隊リストのブロンズランクのところに、登録しておきますね」
 ぺリッパーは、壁に掛けられた救助隊リストのブロンズランクと書かれた場所に、『チームRUN』と書き加えた。
 他に、ノーマルランクを除けば、ブロンズランクに『ハイドロズ』、シルバーランクに『カラミツキ』、ゴールドランクに『FLB』と書かれていた。
「まだまだライバルはいるみたいだね」
「うん。ゴールドランクやシルバーランクって、どんな感じなんだろうね」
 連絡所を出て、ついでに看板の依頼を見ていこうと思ったが、依頼は貼りだされていなかった。
「あれ? どうしてだろうね」
「平和ってこと? でも……」
「ああ、それ?」
 背後からの声に、二匹は驚いて振り返った。
「ワタシはチーム・カラミツキのリーダー、オクタンよ。ブロンズランクになったんですってね、おめでとう」
「あ、どうも、ありがとうございます」
「救助依頼なら、イジワルズっていうチームが全部もらっていっちゃったワ。あんなにもらって、できるわけないのに。それに、一日ではできないから、どこかの依頼主は、そのダンジョンで一夜明かさなきゃならないのよ」
「た、大変じゃん! それって、イジワルズさんたちが独り占めしてるってことじゃん!」
「あのチームにさんづけはいらないわヨ。だから、ワタシたちも困ってるの」
 お互い何かがわかったら連絡する、と約束して、オクタンとは別れた。
 リリーたちは、ポストのチェックがまだだったことを思い出し、救助基地へ引き返した。
 ポストの前には、見知らぬポケモンがいた。
「フーンフーン、さすがはブロンズランク、大量じゃん」
 そのポケモンはゲンガーだった。チームRUNのポストを勝手に見て、救助依頼を持っていこうとしている。
「ちょっと待ったー! 何やってるんだボクらのポストで!」
「ケッ! オレはチーム・イジワルズのゲンガー! 救助依頼は貰っていくからなー!」
「ちょっと、困るよ! おまえがイジワルズのリーダーだな! みんなの依頼を返せ!」
「い・や・で・す!」
 そう言って、ゲンガーは消えた。
「きーっ!」

 その時、道具を仕入れに行っていたカクレオンたちが帰ってきた。
「あっ、店主さん! チーム・イジワルズって見ませんでしたか?」
「……ああ、見たよ。ゲンガーは急に現れて、外で待ってたチャーレムとアーボと一緒に、“怪しい森”の方に行ったけど」
「怪しい森……?」
「ああ、トランセルを救助しに行くって。知ってるのはそれだけさ。悪いけど」
 リリーとノアは首を傾げた。その時、東から声が聞こえてきた。
「リリーさん、ノアさん!」
「あ、君は、この前の!」
 リリーがはじめて救助活動をした時のキャタピーだ。あれ以来、ポケモン広場で遊んだりしている。
「トランセルくんって……ボクの友達です。“怪しい森”で行方不明になっているそうです……」
「なるほど、それは困ったね」
「ハイ。でもどうしましょう。救助してもらえるのは嬉しいけど、相手がイジワルズだったら……」
 キャタピーは下を向いて、困った顔をした。
「きっと、膨大な量のポケや道具を取られるんですう……」
「ええっ?」
 キャタピーの話によれば、イジワルズは依頼主が持っている道具やポケよりも遥かに多くのお礼を要求するそうだ。
「ひどい……! 私たちもちょうど仕事ないし、今から“怪しい森”に行ってイジワルズをやっつけてくる!」
「え? でも」
「ねっ、ノア!」
「うん! 同じ救助隊として許せない!」
 リリーたちは、すぐに森に向かった。

 しかし、今回の“怪しい森”も、突破が難しかった。途中で挟み撃ちにあったり、不意打ちされたりした。
「攻撃がほとんど効かない!」
 回復が間に合わなかったリリーは、キノココの攻撃によって倒れてしまった。
「リリー! ……あ、そうだ! いけっ!」
「わあっ! 私、元気になってる!?」
 ノアがリリーに投げたのは、以前コイルにもらった『復活のタネ』だった。
「ありがとう、ノア」
 そして、リリーとノアはキノココを倒すことができたが、またしても仲間が増えることとなった。キノココが仲間になりたいと言ってきたのだ。
「ね! 仲間になってもいいかな?」
「……君みたいな強いポケモン、大歓迎さ!」

 怪しい森は、進めば進むほど暗くなっていった。文字どおり怪しげな雰囲気が漂っている。ただ、このエリアのこの雰囲気は、森のものではなくゲンガーのものだった。
「おい、トランセル! 助けにきたぞ! お礼、五千ポケもらうからな!」
「ええっ、そんなに?」
 トランセルは、救助してもらえて一安心したのもつかの間、その言葉にとても戸惑ってしまった。
「ちょっと待った! チャーレム、アーボ、それにゲンガー!」
「チッ、何だよてめえら! こんなところまでのこのこと!」
「救助隊なんだから、依頼主にも優しくしなきゃだめだろ! そんな量のポケを要求するなんて反則だ!」
「でもそんな決まりなんてねえぞ。……いいや。バトルして思い知らせてやるよ! この世は金と名誉が全てだってな!」
 リリーたちは、ごくりと唾をのんだ。そして、ゴローンの石を投げて、アーボを倒した。
「やった! ノア、キノココ、そっちは?」
「……ごめん、リリー」
 ノアはゲンガーと戦っていたが、ゲンガーは木の実を使ったため、ノアは勝つことはできなかった。
「吸い取る!」
 キノココは今でも戦っている。それを見て、私も戦わなくちゃ、とリリーは思った。
 キノココはチャーレムを倒した。だが、キノココももう体力はぎりぎりだ。
「ノア、キノココ……」
 その時、ぱっと視界が明るくなった。キノココがチャーレムを倒してくれたおかげで、味方全員に経験値が入り、リリーのレベルがあがったのだ。
「なんか、力がみなぎってきた!」
 リリーは、覚えたての技、電光石火でゲンガーを攻撃し、とどめの電気ショックで終わらせた。
「よかった……」
 リリーたちの額には汗が光っていた。
「ケッ!」

 あれからトランセルは、十分の一の五百ポケにしてもらったそうだ。トランセルにとっては、何とか払える額だった。
「よかった……トランセルくん! やっぱりチームRUNはかっこいい!」
「ハハ。でもリリー、あのイジワルズってやつ、絶対また何かするよね」
「うん、しばらくはマークしておかないと……」。

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