+ 第6話 風の力で…… +


 その日の広場では、ワタッコがダーテング率いる『チーム・テングズ』に、仲間のいる場所へ戻りたい、だから助けてくれ、と頼んでいた。 「お願いします! どうか、お願いします!」
「嫌だね!」
 そう返されて、ワタッコはうつむいた。
「あんなに頼んでるのに……」
 広場の野次馬たちはダーテングを冷ややかな目で見つめるが、ダーテングは一向に答えてくれない。
 リリーとノアは、さっき広場に来たばかりだが、ブルーに教えてもらって今の状況を飲み込んでいた。
「お願いです! あなたなら風が起こせます! “沈黙の谷”の奥に広がる私の里へ連れて行ってください!」
「ダーメ! だって報酬はオレンの実だけなんだろ? 少なすぎるぞ」
「待て! ダーテング!」
 どこからか声が聞こえてきた。この声はもしかして、と、ささやくポケモンもいた。
「ワタッコがこんなに頼んでいるというのに。お前ならこんな仕事簡単じゃないか。風を起こせるのだから」
「やっぱり、チームFLBだった……」
 ブルーのその言葉で、リリーはぺリッパー連絡所を思い出した。救助隊リストに書いてあった、あのゴールドランクの救助隊だ。
「……わかったよ! すりゃいいんだろ!」
 ダーテングは、準備をしてくる、とワタッコに言い捨て、自分の救助基地に戻っていった。ワタッコと野次馬たちは、ほっと息をなでおろした。
「あの、ありがとうございます」
 ワタッコは、FLBにお礼をいった。FLBのフーディン、リザードン、バンギラスの三匹は、笑顔を返した。そして依頼をこなしに行くために、広場をあとにした。
「かっこいいですねぇ」
「やっぱりFLBは、特別な感じね」
 野次馬だったマダツボミとガルーラが言った。
「それじゃ、ボクたちも救助しに行こうか。確か今日は、ハガネ山だったよね」
「うん」

 FLB等の救助隊であまり目立ってはいないが、チームRUNはなかなか良いチームになっていた。リリーとノアもバトルセンスを磨き、メンバーも着々と増えていった。
 アサナンとキノココ以外では、プラスル、マイナン、ココドラ、ウパーが仲間になった。皆頼れる仲間だった。

 三日後になっても、ダーテングの救助についての速報待ちの期間が続いていた。
「おっかしいなぁ。ダーテングたち、まだ帰ってこないよぉ」
「ほんとにね。どうしてるのかしら……」
 リリーとノアもおかしいと思った。ダーテングなら行けると思ったのだが。
「そうだ! チームRUNさん、沈黙の谷へ、様子を見に行ってあげたらぁ?」
「え」
「そうですね。それがいいと思いますよー。RUNさんならいけますよー」
 リリーとノアは顔を見合わせた。 「どうする? 行く?」
「……行こう! ダーテングさんとワタッコさんが心配だし」

 沈黙の谷へ乗り込むのは初めてだった。たどり着いた場所は、なるほど静寂につつまれていた。
 ポケモンにもリリーたちに対して敵意はあるようだが、全く喋らないし、あまり生気が感じられなかった。
 リリーたちにとっては、そのおかげで速く潜ることはできたのだが、あまりにも静かで、何となく足音すら立てられないように感じられた。
「なんか不気味だね」
「奥のほうで水の音がするよ」
「……あ! あれは!」
 ノアが指した方向に、ワタッコとダーテングがいた。
 ダーテングは倒れていた。
「ダーテングさん!」
 リリーの声にワタッコはふりむいた。
「あの、ダーテングさん……倒れちゃった」
「ダーテングさん! 起きて!」
 ダーテングは息はしているが、起きる気配はない。
「どうしよう……。あ、そうだ! ワタッコさん、オレンの実を!」
「え?」
「確かダーテングさんにあげるお礼って、オレンの実だったよね? それ今持ってる? それを食べさせたら、きっと!」
「あ、はい、これですね? よし……」
 ワタッコはダーテングの口に、細かく砕いたオレンの実を流し込んだ。ダーテングは目を開けた。
「ここは……」
「よかった、気がついた」
 リリーとノアはほっとして喜んだ。
「あの、オレンの実、お礼の使っちゃいました……」
 状況を飲み込めたダーテングは、いいんだよとワタッコにお礼を言った。
「よし! ワタッコの里まであとちょっと! がんばろう!」

 リリーはノア以外のポケモンと話せたことで士気がわいてきた。それはノアも同じらしい。ダーテングも体力を回復したし、かなり早くに目的地に着くことができた。
 ワタッコの里である。
「ここ、穴から下りられるんですけど、ほら、私たちって、なかなか下にはいけないでしょ? だからあなたに下向きに風を起こしてほしかったんです」
「なるほど、よし、いくぞ」
 ダーテングは下向きに風をおこした。
「ありがとうございます。皆さん、本当にありがとうございます!」
「元気でねー!」

 下のワタッコの里では、たくさんの草ポケモンたちがワタッコを待っていた。だが誰も、一言も喋らない。
「みんな……今、助けるからね!」
 そういってワタッコは、ことばの葉を取り出した。
 この葉っぱは、谷のポケモンたちが言葉を発するのに必要な葉っぱである。数週間前に、この葉は何者かによって盗まれ、ワタッコ以外のポケモンは言葉を話せなくなったのだ。
 そのため、ワタッコは谷をあがり、盗まれた葉を取り返しに行っていたのだ。
 里には他にもワタッコはいたが、なぜこのワタッコだけ言葉が喋れるままであったのか。これについてはいつかまた。

 ワタッコは儀式をする場所の祭壇に葉っぱをかかげた。すると光がこぼれ、他のポケモンたちも目が輝き、再び言葉を喋れるようになった。
「ありがとう、ワタッコ! ありがとう!」
 こうしてこのワタッコは谷の人気者になった。

 リリーたちが再び谷に救助しにやってきた時には、もうあの不気味さはなくなっていた。谷のポケモンたちが喋れるようになったからである。だが、谷のポケモンはもともと無口であったから、あまり変わらなかったそうだ。。

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