+ 第7話 雷鳴と雷の鳥 +


「リリー……」
(またあの声だ……一体誰なんだろう)
「リリー……!」
 以前は姿が全然見えなかったが、今は少しだけ見える、気がする。
「あなたは本当によくやっています……救助隊としての仕事を……」
「あのっ、あなたは……あれ?」
 そこはいつもの救助基地であった。外から強い光と音が漏れてくる。
 どうやら雷鳴で目が覚めたようだ。
「今日も訊けなかった……。あの人、一体誰なんだろう?」
 リリーはカーテンを開ける。ちょうどその時、耳をつんざく雷鳴が轟いた。
「すごいなぁ。夜明けまでにはおさまるかな?」
 リリーはもう一度寝ようとしたが、雷鳴がうるさくて寝ることができず、とうとう朝になってしまった。

「なんでだろう? まだ雷、おさまらないねぇ」
「怖いよぉ!」
「ディグダ……。お前地面タイプだろ、怖がってどうすんだよ」
 リリーは、朝いつもどおりノアと出会って、広場に来ていた。
「地震の次は雷か……」
「え?」
 リリーの背後にカメックスがいた。チームハイドロズのリーダーだ。
「あ、カメックスさん。お久しぶりです」
 ハイドロズのメンバーは広場にあまり来ないため、会う度に久しぶりなのである。
「おお、リリーさんにノアさん。久しぶり」
「で、さっきの呟きは?」
「今までは雷なんかほとんど来なかった。だが今回はいつまでたってもおさまらない。これも地震のような自然災害なのかもしれないと思ったのだ」
「なるほど……」
「雨が降るのは嬉しいが、雷に落ちてもらったらこっちは困るものでな」
 ピカチュウは電気タイプだからへっちゃらだが、カメックスにとって雷はやっかいだ。
「そういえば、“ライメイの山”を知っているか?」
「知りませんが……そこは?」
 ノアが知らないのだから当然リリーも知らない。だが山の名前からして、雷と関係がありそうだ。
「そこにサンダーが住んでいてな、そいつなら今回のことも知っていると思ったのだ」
「なるほど。でもサンダーって、伝説のポケモンじゃないですか?」
「そうだ」
「ひゃー、伝説かあ」
 サンダーが伝説のポケモンであることはリリーもノアも知っていた。伝説のポケモンは、皆の憧れではあるが、チームFLBに対して抱く憧れとは少し違っていた。伝説のポケモンは、広場のポケモンではまだ誰も見たことがないからだ。
「電気に強いポケモンの多いチーム『ゴロゴロ』が行けたら一番良いのだが、あいつらはまだノーマルランクなのだ。サンダーと戦うのであれば、ブロンズ以上はないとな」
「それで……言っちゃ悪いかもしれませんけど、あなたたちは雷が苦手だから行けない……と」
「別に悪いことではない。ああ、苦手なのだ」
 そこでノアは、リリーに耳打ちした。
「あのさあ、ボクたちで行かない? サンダー、一回見てみたいんだよね」
「……私はいいけど」
「どうかしたのか?」
 カメックスが言った。
「あの、じゃあ、私たちが行ってきます。この雷の原因を、サンダーさんに聞いてきます! なんてったって、私たち、ブロンズランクですからね!」
「そうだったのか! 頑張っているのだな」
 カメックスは広場に来ない分、こういう情報には疎いのだ。
「じゃあ、行ってくるね」

 ライメイの山では、はっきりとした黄色のイナズマを見ることができた。
「なんか……この山に雷、落ちてない?」
「ヒイ! リリー、言わないで!」
「もしかしてノア、雷苦手? サンダーに会いたいって言ってたのに? それに“電磁波の洞窟”で、電気技をくらっても平気だったじゃん」
「空からだったら、いつ落ちてくるかわからないじゃん!! サンダーに会いたいのは本当だけど、それまでにこの雷地獄があるなんて考えてなかったんだよ!」
「いやはや……まあいいか、それじゃ、行くよ!」

 山の中に入っても、ヒノアラシは震え続け、戦える状態ではなかった。
 こんな時に戦意を失ってしまったら危ない。そう思ったリリーは、いいことを思いついた。
「“電光石火”!」
「ギャース!」
 リリーはラクライを倒し、こう誘った。
「お願い、一時的でもいいから、仲間になってくれないかなあ」
 今まで、むこうから仲間になってくれるポケモンはいたが、自分から仲間に誘ったのははじめてだ。
「……」
「サンダーに会いたいんだ。オレンの実あげるからさ!」
「……わかった。一時的だけだからな!」
 こうして、ラクライを仲間にした。ここでリリーがどうしてもラクライを仲間にしたかった理由は、ラクライの特性にあった。
「ね、ノア、これで大丈夫だよ。ラクライの特性は“避雷針”だから、どんな大きな雷でも受け止めてくれるよ」
「ホント? よかった! それじゃよろしくね」
「よろしくな!」

 ラクライは非常に勇敢で、リリーとノアのよき戦友となった。
 ライメイの山には電気ポケモンが多く、ラクライの特性のおかげで電気技を無効にできた。尤も、リリーの電気技も無効になったのだが。
「あ、光だ! 山頂だよ!」
「いや、まだだ。山の外に出ただけで、この坂を登らないと、まだ頂上へは行けない」
「なるほど。もうひと頑張りだね。 ……うわっ!」
 ノアに、急にデンリュウが襲ってきた。この過剰な雷の影響で、ポケモンがさらに凶暴化しているのだ。
「……負けてたまるかあ!」
 ノアはデンリュウに“火の粉”で攻撃をした。リリーもラクライも数々のバトルで疲れていた。ここはあまり戦わなかったノアが頑張るべきなのだ。
「今だよ、リリー、ラクライ! オレンの実で回復を!」
「わかった!」
 リリーは道具箱のオレンの実で、ラクライはリリーに貰ったオレンの実で回復した。
「とどめの電光石火!」
「デンー!」
 デンリュウは倒れた。ノアは冷や汗をかいていた。
「また戦わなくていいように、ちょっとはやめに行こう!」

 頂上には、サンダーが佇んでいた。見る限りだと、サンダーが雷を起こしているわけではなさそうだ。
「サンダーさん! ボクたち、訊きたいことがあって広場からきたんです!」
「何? 訊きたいことだと?」
「だから、この雷の原因は」
「そんなこと私が訊きたいね。とにかく、私は何も知らないよ。さっさと帰りな!」
 そしてまた、至近距離でより大きな雷鳴が轟いた。
 今の雷は自然のものではない。サンダーの技だ。
「きゃぁっ! でしたら、一緒に原因を調べましょう! いきますよっ!」
 リリーがくりだした技は、“電気ショック”ではなく、“10万ボルト”であった。
 それはラクライにではなく、サンダーにあたった。ラクライは、電気を吸収しきれなかったのだ。
「……なかなかやるね。いいよ。でも私は知らないね。だが……精霊の丘に住むネイティオなら、何か知ってるかもしれないよ」
「精霊の丘の、ネイティオ?」
「ああ。私のおかしな友人だよ。あいつはこの世は見えてない。だが他に見えてる場所があるのだ」
「それってつまり……」
「あの世ってわけじゃないんだけどな。とにかく、あいつならわかるだろう。精霊の丘は、ここから南西に行ったところにある“大いなる峡谷”の奥にある。お前たちなら、丘にたどり着くまで二日ほどかかりそうだが……」
 二日。今までダンジョンの中で寝泊まりしたことはなかった。そのため、それを聞くだけでぞっとしたが、ここに来てリリーは、自然災害の原因を本気でつきとめたくなった。
 ポケモンと共にこの世界を救う者となりつつあったのだ。
「私たち、そこへ行ってみます。どうもありがとうございました」

 広場にはカメックスがいた。
「で、どうだったのだ?」
 カメックスは、リリーたちがライメイの山へ行っている間に、他の救助活動をしたため疲れているようだった。
「まだわからないけど。明日、大いなる峡谷に行くんだ。そこでこの雷、あと自然災害の原因がわかると思うんだ」
「明日……もう行くのか!?」
「うん。少しでもはやく原因をつきとめたいんだ」
「……わかった。気をつけて行けよ」
 リリーとノアの意思は固かった。見える未来は、自然災害の原因をつきとめることただ一つであった。
 後にあんな事が起こるとは知らずに。

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