+ 第8話 精霊の丘のネイティオ +


「ではそろそろ、あなたの質問に答えてあげましょう」
「あ、また……」
 リリーはまたあの夢を見ていた。いつものあの声を聞き、同一の存在だとわかった。
「私はサーナイト。リリー、あなたのことをずっと見ていました」
「サーナイト……」
「ところでリリー、あなたはキュウコンの伝説をご存知ですか?」
 キュウコンの伝説。聞き覚えがなかった。
「知りませんが……それは?」
「キュウコンの尻尾についての伝説です。キュウコンの尻尾は非常にデリケートで、掴むとキュウコンのタタリを受けると云われているのです。しかし、ある人間が遊び半分で尻尾を掴んでしまったのです」
「えっ!? それでどうなったんですか!?」
「その人間のかわりにパートナーのポケモンがタタリを受けたのです。そのポケモンは封印され、人間はタタリとは別に、ポケモンに変えられてしまったのです」
「ポケモンに……」
「……」
 そこで、リリーは目を覚ました。
「あれ?」
 だが今日は充実感が強かった。サーナイトとたくさん話ができたからだ。
「でも……ポケモンになってしまった人間って……?」

「おっはよ! リリー!」
 救助基地を出ると、いつものようにノアが待っていた。
「……どうしたの、リリー? 何か考え事でもしてるの?」
「今日の夢のことで、ちょっと考えてるの……」
 リリーは、今までの夢と、キュウコンの伝説をノアに話した。
「そんなことが……本当なのかわからないけど」
「いったい誰が尻尾を掴んだんだろうね? ……まぁいいや、精霊の丘に行こう!」
「うん」
 もう準備を終わらせていたリリーたちは、広場に寄らずに“大いなる峡谷”までの道を急いだ。
 木の陰にいた存在には気づかずに。

「うわー、大いなるって、言われるだけはあるよ」
「そうだね……」
 そこは岩だらけの場所で、そんな場所でも逞しく生きる植物が根付き、滝が激しい音を立てていた。
「あの先が精霊の丘なんだよね……霞んでて見えないなあ」
「なにしろ二日かかるって言ってたからね。そう簡単には着けないでしょ」
 リリーとノアは、辺りををもの珍しそうに見回しながら、歩みはじめた。
 大地ではゴマゾウやドードーが駆け回り、影にはノコッチが、空にはポポッコがいた。
 できるだけ彼らに気づかれないよう進んだが、やはり少しはバトルをしなければならなかった。
 はじめに対峙したのはドードーだった。リリーは、今までのダンジョンで出会ったポケモンより遥かに強いドードーに苦戦していた。
 リリーはいったん逃げるようにして、落ちていたスペシャルリボンを拾った。
「よしっ! “10万ボルト”っ!」
「ギャース!」
 スペシャルリボンは、装備すると特殊攻撃力が少しだけ上昇する。リリーは得意の電気技で、ドードーを倒した。
「よし! リリー、今のでレベルアップだね」
「うん。こうやってちょっとずつレベルを上げていけば……!」

 リリーとノアは、それから休まずに歩いて、バトルもしつつ、滝の裏の洞穴に着いた。
「ここならゆっくり休めるね!」
「そうだね」
 リリーとノアは、ここで一晩明かそう、と思った、が。
「カァーッ! 何しに来たぁー。ここは我等のなわばりだ!」
「そうよ、出て行きなさい!」
 夜の暗い洞穴だから気がつかなかったが、そこにはヤミカラスとラフレシアたちがいた。
「どっ、どうしよう! ね、リリー、戦う? 逃げる?」
「しっ!」
 リリーはノアの口に手を当てた。何かに気づいたらしい。
「どうやらバトルどころじゃないようですよ」
 リリーはヤミカラスたちに、静かに言った。リリーは地面のわずかな動きを感じ取っていたのだ。
 その時、辺りは強く揺れだした。
「ギャー!」
「皆、こっちよ!」
 その大きな揺れに、ヤミカラスとラフレシアの仲間たちも起きた。リリーの指導にしぶしぶ従い、群れは外へ逃げた。同時に、穴は塞がった。
 しかし、ヤミカラスの子ども一羽が、洞穴から出ることができなかった。
「助けてー、助けてー」
 そこだけ崩れなかったのであろう。子どものか細い声が聞こえる。
「どうしよう……私の子どもが……」
 その子の母親らしきヤミカラスが、泣き崩れた。このままだと、生き埋めになってしまう。
「……まだ大丈夫です。ね、助けよう! リリー」
「うん。わかった。よし! この技マシンね」
 リリーは、拾ったわざマシン『穴を掘る』を取り出して、ノアに渡した。
「いっけえー!」
 ノアは“穴を掘る”を覚え、リリーの耳で探った、子ヤミカラスの声がする場所へ、穴を掘り進めた。
 ノアが戻って来た時には、子ヤミカラスも一緒だった。
「お母さーん」
「よかった……よかった……」
 リリーとノアは、その母子を見て、優しい気持ちになった。
「さっきはすまなかったな」
 長らしきヤミカラスが言った。隣には一番大きなラフレシアもいた。
「実はもうひとつ、洞穴があるのです。そこで今日は眠ってもいいわよ」
 群れの他の者も、「いいよ」「来なよ」と言ってくれた。
「はい、お願いします!」
 こうして、リリーとノアは寝床を確保した。また明日には、たくさんのバトルが待ち構えているのだろう、と思いつつ。

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