+ 第1話 屋根裏部屋 +


「リリー、もう待ちくたびれたよ!」
「あ、キオ。……ごめん、筆箱が見当たらなくて」
「……」
 放課後。いつもの下校風景だ。
 リリーがポケモン世界で不思議な冒険をしてから、すでに一年以上が経っている。
「大体、学校で筆箱なんて無くせないじゃん」
「いやー、それが、理科の時間に理科室においてっちゃったみたいなんだ」
「……」

「リリー、おかえり。あら、今日はキオちゃんもいっしょ?」
「それに、レイもいっしょですよ」
 リリーが家に入るなり、リリーの母ヒイラと、ラッキーのムーがあたたかく迎えてくれた。
「宿題一緒にやろうと思って」
「そう。どうぞキオちゃん」
「ありがとうございます」
 子供たちはリリーの部屋に入った。おちついた和室で、屋根裏部屋に続く梯子がある。
 いつもならすぐに折りたたみできるテーブルを出して、ノートを出すのだが、リリーは部屋を見回して立ち止まった。視線は梯子にある。
「どうしたの、リリー」
「……あれ」
 リリーが梯子を指差したことですぐにわかった。屋根裏部屋から金色に輝く何かが見える。
「何かあるわね。行ってみよう」

 金色に輝く光は、かなり古い紙を照らしていた。リリーはその紙を拾って、広げてみた。それはどこかで見たことのある地図だった。
「これは……」
「ちょっとリリー! 屋根裏部屋にのぼるのは用がある時だけにしなさい」
「あ、お母さん。これなんでここにあるの?」
 とりあえず下りてきなさい、とヒイラに言われたため、リリーとキオは梯子で下りた。
「ほら、これっ!」
 それはポケモンワールドの地図――リリーがかつて冒険した大陸――であった。
「あら、懐かしいわね。また行きたいわ」
「え?」
「これ、ポケモンワールドの地図でしょう? 私も行ったことあるわよ」
「へ?」
 キオは全く話についていけなかったが、リリーもヒイラの言った言葉の意味がわからなかった。
「救助隊でしょ? だからずっと目覚めなかったのよね、リリー」
「そりゃ、そうだけどさ」
「ちょっと待って! リリー、リリーのおばちゃん、説明して!」
 キオがリリーの言葉をさえぎった。
「つまり、リリーが目覚めなかった時は、ポケモンワールドへ行っていたということなの?」
「そうね。だからずっと寝ていた時もあまり心配していなかったのよ。目覚めることは確信していたからね」
「ちょっ……だからあまり心配してなかったんですね!」
「まあ……リリーがちゃんと世界を救えるか心配はしたけれど」
 キオは納得したような納得していないような顔になった。リリーはそれよりも、ヒイラとポケモンワールドとの関係について知りたがった。
「で、お母さんはポケモンワールドに行ったことがあるのね?」
「そうよ。私たちの家系の人間が来るのは100年ぶりくらいだったらしいけれど。“呪縛”から解き放たれたのはいいけれど、食糧難や家を無くしたポケモンたちを救うため、パートナーのポラリス……リオルの男の子と救助隊の基礎を作ったのよ」
「知らなかった」
 リリーはひたすら驚いた。ヒイラはさらに続けた。
「私たちの家系は、不思議な力を持っていて、ポケモンワールドが危機に瀕した時に向こうへ移動できるようになっているの。それも全て屋根裏部屋の本を読んでわかったこと」

 はるか大昔に、はじめの危機を迎えたポケモンワールドは、代表者を選んでこっちの世界に来て、助っ人を呼んだ。
 その助っ人が、リリーやヒイラの先祖なのだという。ポケモンワールドへ行った初代の人の名前は、“イシ”。
 ちなみに、ポケモンワールドからこちらに来た“代表者”は、現在は<世界の審判>となって、世界を守り、ふたつの世界をいつでも行き来できるようになっている。
 <世界の審判>になり、世界を治める前、何のポケモンだったのかは、誰も知らないし、誰も憶えていない。

「そうだったの……私がポケモンワールドに行けたのには、そんな意味があったなんて」
「そう。しんぴのしずくに呼ばれて、向こうへ行けたんでしょ」
「すごいねそれ」
 ずっと黙っていたキオが口をあけた。
「ごくまれに他の人間も行けるらしいわよ。ひょっとしたらキオちゃんも行けるかもね」
「え? そんな」
 その時、リリーの持っていた地図は光るベールになって、リリーを包み込んだ。
「え……これは……」
 シュン! と音を立てて、リリーは消えた。……ように思ったが、いつのまにかリリーの体は床に倒れていた。
「まさか……またポケモンワールドが危機に瀕して……」
「リリーに助けを求めたっていうの?」
「そうよキオちゃん。二度目だから、早く目覚めるとは思うんだけど……そうだ、キオちゃん、お願いがあるの」
「え? 何でしょう」
「リリーの分の宿題、やってくれない?」

「ふざけるなー!!」

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