+ 第7話 それでもやり直せるのなら +


『ゲンガーの気持ちはわかった。だが、やはり……タタリは解けなかった。それほどまでに、キュウコンのタタリは深く……』
 <審判>がそう告げると、ワタッコはいてもたってもいられず、リリーたちの前に姿を現した。
「嘘はやめてください、<世界の審判>さん。あなたなら出来るはずです!」
「えっ、ワタッコ! どうしてここに」
「ワタッコの里から“ことばの葉”を盗んだのは、ゲンガーさん、あなたですね? 今ので確信しました。でも私は、運よく風が吹いてくれたおかげで、葉を取り戻せた。言葉を失ったポケモンたちの中、どうして私が失わなかったのか、もうわかりますよね?」
 ノアは既に検討がついていた。リリーは、突然の展開についていけないようだった。
「私が、元・人間だったからですよ。それが計算外でしたね。でも、だからこそ、<世界の審判>さん、あなたがゲンガーさんとサーナイトさんを救えることはわかっています」
「ボッ、ボクからもお願い!」
 たまらず、ノアも出てきた。
『……不可能ではない。ゲンガーを人間に戻し、サーナイトも向こうの世界で元に戻す。だが、お前とサーナイトの関係は、やり直しになってしまう。私が送った人間ならば、私の力でどうにもできるのだが、キュウコンのタタリがかかったポケモンは、“転生”しなければならないのだ』
 ゲンガーの瞳が曇り、小刻みに震えだした。
「そ、そんなっ……」
 リリーたちは、もう何も言わなかった。静かに状況を見守っている。
「それでもっ! それでも助かるのなら! それであいつが幸せになれるのなら!」
『……決定だな。人間に戻ったお前の近くで転生できるように、できる限り力を尽くそう。ただ、今は世界の綻びが』
「世界の綻び?」
『ああ、それのせいで、私は……』
 そこで、<世界の審判>の声が途切れた。
「そんな……」

 もう<審判>の声を期待できないとわかった一行は、広場に戻った。
「ノア、世界の綻びっていうのが何か調べて、それを何とかしよう! ポケモン世界と、共存世界の未来のために」
「うん、もちろん! でも、共存世界の未来っていうのは?」
「ゲンガーと、転生したサーナイトのための世界。<世界の審判>の力を戻した時に、はじめて幸せになれると思うから。……ねっ、ゲンガー!」
「お前たち、どうしてそんなにやる気なんだ? オレ、お前たちに酷いことしたのに……」
「もう過ぎたことって、私は言った! ゲンガーとサーナイトのためにも、ゲンガーも協力してもらうよ!」
 ゲンガーは、無言で頷いた。

 またね、と言い合って、救助基地に戻る最中、ノアはリリーに、先に戻っておいて、と言って、途中で道を引き返しはじめた。ワタッコに訊きたいことがあったのだ。
「君は人間には戻らないの?」
「ええ。というよりも、もうあちらには実体はないんです。<世界の審判>が、死にぞこないの私を助けてくれた、最近そういうことを夢で見たんです。沈黙の谷の出来事の後、ダーテングさんの協力で、私も広場に気軽に来ることができるようになりました。ちょうど広場に来た日のナマズン長老の話に、死んだ人間がこちらでポケモンになるという話があったので、ことばの葉の話と合わせて、きっと私がそうなのだと思ったのです」
「不思議な出来事があるもんだねぇ……」
「ええ、この世界はとても不思議です」

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