+ 第10話 大地を駆ける者たち +


 まずは、ホウオウに出会うために、“三つの大地”と呼ばれる島へ向かう。
 リリーやノアが選んだわけではなく、ただパッチールが、海より大地が先の方がいいだろうと言ったからであった。
 パッチールの用意したいかだは粗末なものであったが、海が荒れることなく航海することが出来、もう陸はすぐそこであった。
「南の海は荒れているそうなのですが。これもあなた方の言う、世界の綻びからなんでしょうか」
「そうなの? うーん……そうかもしれないな」

 三つの大地へ足を踏み入れる。明らかに、いつも活動している大陸とは雰囲気が違った。
 より野生的で、より未踏。ここにいる間だけでも、綻びの心配や憂鬱さを吹き飛ばして、パッチールのようにのんきにロマンを追いたくなる。
「まずは、“炎の大地”……」
 地図を広げて、リリーが言った。
 ノアが地図を覗き込む。三つの大地には、他にも、イナズマの大地、北風の大地と呼ばれる場所がある。
「んまっ、とりあえず進みましょーや……うげっ」
 パッチールが歩き始めると、いきなり小石につまづいて、ロコンたちがこちらに目を向けた。
「危ない、パッチール、引っ込んで!」
「てまえだって、なんにも出来ないわけじゃないんですよ〜。これでもくらいなさいっ!」
 そしてパッチールは、その不安になる独特の足取りでその場を回り始めた。どうやらダンスのようだ。
「“フラフラダーンス”!」
 思わずリリーとノアは目を逸らした。その技は、ポケモンを混乱状態に陥れる技だからだ。
「そして、“サイケ光線”!」
 パッチールは、その場にいたロコン三匹を倒した。リリーとノアは、思わず関心する。
「み、見くびってたわけじゃないけど」
「てまえは、いつだって夢とロマンを追って旅していますからね。ダンジョン攻略の基礎も心得ているつもりであります!」
「そっか、頼もしいよ! ……ただ、技が終わってからもダンスを続けるのはやめてくれないかな?」
「あ、はい、癖なんですよ、これ」
 今でも、見るだけで混乱してしまいそうになる。

 しばらく進んでいくと、立派な鬣を持ったポケモンが目の前を横切ったと思いきや、急ブレーキをした。
「あのポケモン、エンテイ!」
 パッチールが言った。
「そこのピカチュウ。お前から、遥かなる主の存在を感じた……一体何故だ?」
 エンテイと呼ばれたポケモンは、そのままリリーに襲い掛かってきた。
「え、ま、待って!」
 羽根は二枚ともリリーが持っている。ノアは、エンテイの言葉の全てが理解できたわけではなかったが、何とかリリーを援護しようとして、ダンジョンで拾った“俊足のタネ”を投げた。
「リリー、これを!」
 リリーはそれをキャッチし、かじる。リリーは一気に素早くなり、エンテイの突進を避けた。
「“10万ボルト”……あれ?」
 全力で技を繰り出したつもりが、エンテイにはほとんど効かなかった。
「この地でその技が効くと思うな!」
「この地で?」
 ノアは首を傾げた。その技が効かないということは、他の技なら効くのだろうか。
「“三つの大地”は、炎とイナズマと、北風……あ、もしかしたら! ノアさん、エンテイに攻撃を」
「え?」
「“イナズマ”は雷タイプのことでしょう。“北風”はよくわかりませんが。……その三つのエネルギーが、そのタイプの名のつく土地では威力が高くなって、他の二つの土地では威力が低くなるのでは。今までは、それでもポケモンたちを電気技で倒せましたが、さすがにエンテイとなると」
 ノアはパッチールの話を聞くと、無言で頷いて、エンテイへ向かった。
「これでもくらえ! “火炎車”!」
 ノアは一気に突進する。パッチールの言った通り、火力は普段より遥かに大きくなっている。
「この土地のからくりに気がついたようだな。だが、炎タイプは私のタイプでもある」
 そう言ってエンテイは、“炎の牙”でノアに噛み付こうとした。
「させない!」
 リリーは、その俊足でノアの手を握り、エンテイから遠ざけた。
「“電光石火”!」
 いつもと違う軌道を描き、エンテイに突進。これに参ったようで、エンテイは攻撃を止めた。

 落ち着いたところで、リリーは、“世界の綻び”についてエンテイに話した。
「なるほど。この地にその影響はまだ出ていないが、そんなことが」
「ハイ。だから、“遥かなる主”……これってホウオウのことですよねぇ」
「そうだ」
 リリーはそこで、羽根を出した。
「ホウオウに会うために、この羽根の色を染めてほしいんです」
「わかった。いきなり襲い掛かって、すまなかった……」
 エンテイは、羽根に炎をぶつけた。炎は深い朱色に染まった。
「あとはライコウ、スイクンに会えばいい。ここから近いのはライコウがいるところ……すなわち、“イナズマの大地”だ」
 そこでパッチールは、北風の大地にスイクンがいるのなら、北風は水タイプを意味するとわかり、ノアに話した。リリーはエンテイとの話を続ける。
「では先に、イナズマの大地へ行きます」
「わかった。では、さっきのことを詫びるわけではないが、あることをしておいてやろう」
「あること……?」
 じきにわかるだろう、と言って、エンテイは東へ駆けていった。

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