+ 第10話 大地を駆ける者たち +


 リリーは特に感じなかったが、“イナズマの大地”は、いるだけで痺れてきそうな場所らしい。ノアが、痺れが急に襲ってこないかと震えている。
「そんなこと、あるわけないでしょ……あ、また“クラボの実”。拾っておこうか」
 こうして、身体の痺れをなくす力のあるクラボの実を拾って、ノアを安心させようとしている。 
 パッチールは、炎の大地で言われたことに気をつけようとしながらも、やはりふらふらした歩き方になっていた。そして、よく下を向くことに、ノアは気がついた。
「パッチール、何か探してるの?」
「あ、ああ、てまえ、グミを探しているんです」
「グミ……あの、賢さを上げる?」
「ハイ。でも、ここには無いようですね、残念です」
 パッチールは少し気を落とした。グミが大好物で、食べて賢くなった結果、夢とロマンを追うと言い出したのだろうか、とノアは考えた。
「んー、それじゃ、無事羽根が手に入った時に、ちょっとだけ分けてあげるよ。ボクらの好物である、黄色いのと赤いのはあげられないけど」
「ほっ、本当ですかぁ!? ありがとうございます!」
 パッチールは機嫌をよくし、スキップした。やはり見ていると目が回りそうになる。

「あれ、ライコウ、じゃないかな」
 リリーはノアとパッチールにそっと囁いた。
「あのいでたち、どう見てもエンテイの仲間ですね。きっとそうでしょう」
 ライコウは、大地にそびえる山を見ている。紫色の、雲を思わせる鬣が静かになびいていた。
「ライコウさん!」
 リリーは叫んだ。ライコウは気だるそうに振り向く。
「あの、これを」
 リリーはごそごそと、鞄をあさった。
「……」
 ライコウはリリーの話を聞かず、“雷”を落とした。
「ひゃぁっ!」
 ここイナズマの大地では、電気タイプの技の威力が上がる。それに伝説とも言われるライコウの技だ。まともにくらったら、一溜まりもない。
「皆、大丈夫?」
「し、しび、れ……」
 ノアもパッチールも、まひ状態になってしまった。
「やっぱり、まひに、なって、しまったじゃないかあ!」
 ノアは半ばパニック状態だ。
「よし、ノア、“クラボの実”、受け取って! そして痺れがとれたらそのまま攻撃!」
 リリーは、大量にあった実のうち一つを投げた。
「“火炎放射”!」
 ノアは、わけもわからないまま火を吐いた。ライコウに直撃し、リリーにもかすった。
「リ、リリィー! ごめんねごめんねー!」
「ノア、さっきから何だか、パニックみたい……どうして」
「お前たちは“炎の大地”から来たのだな」
 ライコウは心を落ち着けて、言った。
「どうしてわかったのですか?」
「ヒノアラシだよ。自分をみなぎらせていた炎の力が無くなったからだろう。私も、他の大地に行くのはごめんだ。それに」  ライコウは、リリーの持つ鞄に視線を落とした。
「あ、これ、です」
 リリーは、エンテイの炎で朱色に染まった羽根を取り出して、ライコウに見せた。
「これの色を染めてほしいんです。ホウオウに会うために」
「わかった。エンテイが認めたポケモンだ、私もこの羽根に力を与えよう」
 ライコウは、羽根に電撃を流した。
 結果、羽根には朱色と、ライコウの雷によって出来た薄橙色の見事なグラデーションが描かれた。
「す、すっごくきれい! あとはスイクンだ」
「そうか。あの地は寒いぞ。それに、そこのピカチュウ、“北風の大地”に入ったら一旦長い休憩を取らないと、ヒノアラシのようになってしまう。パニック以外にも、寒気がしたり……まあ、もともとあそこは寒いんだけどな」
 はは、とライコウは笑った。
「あのー……」
 その声に、リリーとノアは振り向いた。ライコウはそのまま視線を移す。
「そろそろ、てまえの痺れもなくしていただければなー、と」
「ご、ごめん! 本当にごめん! ライコウと話し出してすっかり……」
 リリーがクラボの実を渡すと、パッチールの痺れはとれて、また元気になった。

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