+ 第10話 大地を駆ける者たち +


 “北風の大地”に少し入ったところで、一行はライコウに言われた通り、一休みすることにした。
「わざわざごめんね」
「いいって。リリーにはああいう気分になってほしくない」
「ありがとう」
 涼しい風が吹く中、芝に寝そべる。空が全て自分たちのものになった感覚を覚える。
「ねえ、パッチール。この世界の、素敵な夢とロマンの話を教えて」
「えっ! そうですねえ……では、てまえが生まれた大陸のお話を」
「パッチール、別の大陸から来たの?」
「ハイ。ここに来たのは、羽根を使ってホウオウとルギアに会うためですから」
 リリーは、鞄から二枚の羽根を取り出して、見上げた。一枚は朱と薄橙に染まり、一枚は色も無く透き通っている。
 パッチールは、遠い大陸の話を始めた。リリーもノアも、再会した日の夜の話を思い出した。

 話も終わり、大地を踏みしめる。
 進むほどに北風は強くなり、今では寒いほどだ。

「リリー、パッチール、耳を塞いで!」
 ノアは、何の前触れもなく、後ろを歩いていたリリーとパッチールに言った。
「ニョロトノの“滅びの歌”が……ボクは数ターン後確実に倒れる」
 リリーは道具を調べた。“復活のタネ”は残り一つだ。つまり、もしまた誰かが歌を聞けば、ここを抜けられなくなってしまう。
「リリーさん、これを!」
 パッチールがリリーに渡したものは、“見通しメガネ”だった。これをかけていれば、遠距離のポケモンも見えることができる。すなわち、ニョロトノが歌の届く範囲に近づくまでに、飛び道具を使って倒すことができるのだ。
「そっか、ありがとう!」
 リリーはすぐに装備をそのメガネに変えた。
「“10万ボルト”!」
 ニョロトノが近づいてきたところで、まず一匹、ニョロトノを倒した。地の利による電気技の威力低下はあるが、効果は抜群だ。
「うっ……ごめん」
 ノアは、滅びの歌で体力を奪われたが、“復活のタネ”で復活を遂げた。

 その後は、リリーがニョロトノを発見するたび報告、ノアが“火炎放射”、パッチールが“ゴローンの石”で、遠距離攻撃をしかけた。
 順調に進んでいたところで、リリーはメガネごしに、あるものを見つけた。
「あの輝き……スイクンかな?」
 メガネを外して見る。北風の壁の向こうで、額の水晶を輝かせているポケモン。間違いなくスイクンだ。
「やったー、早速行こう」
 ノアは駆け出そうとしたが、リリーはそれを制止した。
「また襲われるかもしれないよ! ここは、慎重に……」
 そこで、スイクンはこちらの会話に気づき、こちらに向かってきた。
「やばっ」
 だが、スイクンが攻撃してくることはなかった。スイクンは落ち着き払って、
「待っていたよ」
 と言った。
「羽根を出して」
「は……はい」
 穏やかな声で言われ、リリーはその通りにした。
「エンテイに聞かされたんだ、君たちが来ることも、その理由も。こちらに来ると、エンテイは力が劣ってしまうのに」
「そうだったんですか……」
 一行は、エンテイの言っていた“あること”とは、このことであると、ここで理解した。
 スイクンは羽根に冷風を叩きつける。それにより、羽根の付け根は、大地の草の色になった。
 朱色、薄橙色、若草色。羽根はさらに美しく、また荘厳なものになった。
「ふふ、遥かなる主に相応しい色だ。それを持っていれば、まず主は攻撃してくることはない。ここから北西にある“遥かなる霊峰”を目指せ」
「わかりました!」
「ハァン、そこに行ったらホウオウに……」

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