+ 第11話 遥かなる主 +


 ノアは手先が器用だ。
 近くの泥を集め、今まで見た伝説ポケモンたちの顔を作り上げた。
「えーと、このポケモンで間違いない?」
「私は、そのポケモンたちを見たことがないのですが……トーテムポールに彫られたポケモンは、確かにそういう顔をしていました! すごいです!」
「よし、オッケー。じゃあ、これを乾かさないと」
「それならお任せください!」
 ポワルンは、太陽に向かってうなった。一気に日差しが強くなり、リリーとパッチールは一気に身体がだるくなった。
「“日本晴れ”か。これで泥もすぐに乾くね」

 しばらく待つと、三つの顔が模られた泥は乾いた。同時に日差しが弱くなる。
「このまま、風化したところにつける、と」
 ふわふわと浮かぶことが出来るポワルンは、その泥三つをトーテムポールにつけた。
「うーん、でも不安定ですね」
「だーいじょーうぶ、ここはてまえが」
 パッチールは、それぞれの顔に、なにやら念のようなものを送る。
 顔はみるみる安定した。もうトーテムポールにすっかり馴染んでいる。
「えっ、すごい!」
「んま、“サイケ光線”の応用といったところですよ。これで長持ちします」
「あ、ありがとうございます! 本当に……」
「いえいえ、夢とロマンのためだよ! それではまた、同志よ!」

 ポワルンと別れ、さらに登った先は、ポケモンもほとんどおらず、ただ沈黙していた。
 そんな中、リリーの長い耳が、ある音をとらえた。
「何かが……羽ばたく音? ひょっとして」
「ホウオウ?」
 リリーは、虹色になった羽根を取り出して、それを持った手を挙げた。
「……」
 静けさの中、ポケモンの雄叫びが聞こえたような。
 はじめはただ、気がするだけだったが、すぐにそれはリリーたちの視界に入った。
 虹色ポケモン、ホウオウ。
「礼を言うぞ。トーテムポールはより美しくなった」
「見てたんですかっ?」
「ああ」
 ホウオウはそっと、地に下りた。頂上のその部分にのみ生えた草が波打つ。
「で、その、私たち、“世界の綻び”について訊きたくて」
「ああ、そのおかげで、仲間たちが大変な目にあっているらしいな。<世界の審判>も動けない今、頼れるのは……“地底遺跡”のミュウだけだ」
「ミュウ……?」
 ジャングルに住むと云われる、幻のポケモン、という知識がリリーにはあった。だが、どうもこちらの世界のミュウは遺跡に住んでいるらしい。地底に木が鬱蒼と茂っているのだろうか。
 ホウオウはそっと、自分の羽根を一本抜いた。
「“虹色の羽根”、本物だ。これと“銀色の羽根”を持って、“地底遺跡”の最奥部にある“万年の家”を開くのだ。その中に秘められた力に、ミュウが念力を加えれば、綻びをなくすパワーとなりえるのだ」
 リリーは、その無限の輝きを持つ羽根を、両手で受け取った。
「ありがとうございます……」
「“銀色の羽根”はまだ持っていないようだな? これからお前たちはルギアに会うために、私に会いに来た時と同じ過程をたどらなければならないだろう。カイオーガ、ラティアス、ラティオスが、羽根の色を染めるのだ」
「カイオーガ、ラティアス、ラティオスですね。わかりました」
 リリーは、羽根を鞄の空ポケットにしまった。
「あ、あの、この羽根は」
 パッチールは、伝説のポケモンたちによって染められた“虹色の羽根”を指して言った。
「持っておくといい。私の信頼する臣下たちが美しく染め上げた羽根だ。私の羽根と比べても、劣る点はない」
「はい、では、ワタクシが大切に持っておきます!」

 広場に戻り、ノアは地図を開いた。
「確かカイオーガっていうのは、自分のいるところの周りに嵐を起こすんだ。ってことはほら、ここ“嵐の海域”にいるんじゃないかな」
「へえ、“嵐の海域”……ノア、そんなとこに行って大丈夫? それに、パッチールも」
「てまえは大丈夫です! 夢とロマンのためなら、たとえ火の中水の中!」
「ボクも大丈夫さ。海に潜る時は、救助バッジが守ってくれるから」
 そう言って、ノアは救助バッジを取り出した。
「えっ、これって」
 それを見て、リリーは目をみはった。自分のバッジを取り出す。
 救助バッジの色が、変わっていたのだ。
「ランクアップ! 確かこの色は、ダイヤモンドランク!」
「やったーっ!」
 リリーとノアは、歓声をあげた。
「おめでとうございます! これが、救助隊たるものの夢とロマンってことなんでしょうか。少し羨ましくもありますねー」
「えへへ! それじゃ、今日中に準備して、朝になったら早速向かおう。ボクたちの目標はこれよりさらに上、“世界の綻び”を止めることだから……」

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