+ 第16話 模造された世界 +


 銀の海溝。
 海上から見るだけで、海が濃い色をしていることがわかる。
 その海溝の入り口、大きな渦潮が見えたところで、リリーは渦潮の石を取り出した。
 それだけで、渦潮は治まる。リリーたちがそこから潜ると、水面に近い側から渦潮が復活していった。
 訪問客を向かえ、侵入者を完全に妨げる、渦潮。深くに眠るルギアの拠点としてふさわしいものだ。

 海はどこまでも澄んでいるが、ポケモンたちの様子はおかしかった。
「海の調子が悪いノダ……」
 そんなオムナイトたちの会話を聞いて、リリーはそちらへと向かった。
「どういうこと?」
「近頃、食料が、ベトベタフードくらいしかなく、皆苦しんでいるノダ……」
 ノアが辺りを見回す。所々にへばついている、紫色で、できれば食べたくないと思わせられるもの。あれがベトベタフードだろう。
「いつもワシらは、美味しい美味しい青いグミを食べているノダが、いつのまにかベトベタフードしかなくなってしまっていた。ベトベタフードは、食べると身体に痺れが起きたり、異常な眠気に襲われたり、とにかくろくなことがないノダ……ルギア殿のせいだと言って、ここを出て行ってしまった同胞も多い……」
「それは困ったね。どういうことだろう?」
「たまに、深く深くから、ルギア殿のものではない、いやらしい笑い声が聞こえてくるノダ。それと関係しているのかもしれない」
 どうやら、“世界の綻び”と直接関係する事件ではないとわかり、リリーは少し安心した。だが、このままでは、ここに住むポケモンたちが生きていけないだろう。
「だが、そんな海底なぞに、ワシらは行けないノダ……」
「よし、それじゃ私たちが見てくる! 私たち、ルギアに会いに海底に行くし」
「ほ、ほんとか?」
「てまえからも言いましょう! グミ、それは食べるだけで幸せーな気持ちになってしまう、ある意味夢とロマンを味にしたようなものです。それが無くなったならば、取り戻すまで!」
「ボクももちろんグミを探すよ。炎タイプだから、あんまり力になれないかもしれないけど」
「皆さん……ワシ、嬉しい!」
 オムナイトは思わず涙ぐんだ。まだ何も成果はあがってないよ、あげてみせるけど、とリリーは言って、海中深くに潜る体勢に入った。

 生きる気力を失ったようなポケモンたちを横目に、リリーたちはいやらしい笑い声を聞いた。
「い、今の!」
「オムナイトが言ってた。あっちからだ!」
 笑い声の主は、海底には派手すぎる、しなやかな桃色の尾を持ったサクラビスであった。
「オーホホ! もう海草には飽き飽き。私の強さを持ってすれば、グミ集めなんてたやすいことだわ」
 そして、サクラビスは、壷にあるグミを吸って食べた。壷の中には、まだまだグミがある。
「こらー! グミを独り占めするなー!」
 リリーは、その光景を見て思わずそう言った。周りのポケモンたちは、ひそひそ話をはじめる。
「ちょっと! 悔しくないの?」
「悔しいさ。でもここでは、あのサクラビスが一番強いポケモンなんだ。誰も逆らえない……」
「オホホ、そういうこと! あーいいわね、グミを食べると、さらにボディがきれいになるわー」
「ふざけるな! ボクたちは救助隊だ。サクラビス、君の悪行を止める!」
 ノアがそう威嚇すると、サクラビスは身をひるがえし、ノアの目の前に来た。
「そーう。それなら、止めてごらんなさい。どーせあなた、ボロ布になっちゃうわよ?」
 ノアは一瞬怯んだが、それでもサクラビスを睨み続ける。
「リリー! リリーは先に、ルギアのもとへ」
「えっ、でも、それじゃ攻撃力が」
「大丈夫、秘策があるんだ!」
「……?」

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