+ 第16話 模造された世界 +


 ノアは、サクラビスが攻撃体勢に入ったあと、そっとパッチールに耳打ちした。
「これ、使える?」
「やってみます」
 サクラビスは、そのままノアに突進してくる。やっていることは醜くても、このサクラビスというポケモンは非常に優雅で、泡も輝いて見えるのがまた皮肉であった。
 ノアは一歩も動かない。そればかりか、余裕の笑みを見せている。
「ふふ、バカね! くらいなさーい!」
 サクラビスがそう声をあげるとともに、パッチールはサクラビスに攻撃した。サクラビスの軌道がずれ、近くの岩にぶち当たる。“不意打ち”だ。
「よし、次はボクだ。“スピードスター”! いくら素早いあなたでも、これは避けられない!」
 泡に負けない輝きを持つ星々が、サクラビスに襲い掛かる。背中をやられ、サクラビスは思わず苦々しい声をあげた。
「よ、くも……って、こんなことだと思ったわ! “ド忘れ”して特防をあげておいたから、ぜーんぜん効いてないわよ!」
「そんな」
「次は私の番ね。“サイコキネシス”!」
 深海に、念波が響き渡る。幻影でも見えてしまいそうだ。
 これには周りのポケモンにもダメージがいった。
「か、関係ないポケモンたちに攻撃するなぁ……!」
「オホホホホ! いい気味ですわー」
 だが、その中でパッチールはあまりダメージを受けていなかった。ポケモンたちが念波に苦しむ中、平気な顔でいる。だが、これはいつものあどけなさとは無関係だ。
 パッチールは突如“自己暗示”をかけ、サクラビスが“ド忘れ”であげた特防を自分にも反映されるようにしたのだ。
 だが、自分が平気であることをサクラビスに見抜かれてはいけない。周りにいた、パールルやチョンチーたちに、援護を求める。
「一人ひとりの力は小さくても、まとまれば大きな力となる。念波を真正面で受けてしまった、ノアさん……ヒノアラシを助けましょう! わたくしが合図します」
 パールルやチョンチーたちは、縦に動いて肯定の意を表した。
「うっ……これはよく効くなぁ……」
 そう言いながらパッチールはノアにもたれかかり、そのままノアを押してサクラビスの正面からずらした。
「……今です!」
「いけーっ!」
 その場にいた、小さな力をもつポケモンたちは、一気にサクラビスに襲い掛かった。
 サクラビスを囲み、一斉攻撃。攻撃力はそれほどなかったものの、こんな大群に襲われて平気なほどサクラビスに体力はなかった。
「やめなさい!」
 サクラビスは、そのポケモンたちを追い払った。それでもまとわりつくポケモンたちだったが、やがて攻撃をやめた。身体中ぼろぼろになって、もう反撃はできないだろうと判断したからだ。
「うっ……自慢の肌がぁ……うっ……」
 サクラビスは、自分の肌を見て涙ぐんだ。それを見て、あるパールルが、サクラビスに近づく。
「それは、季節の問題でもあるのです。春になると、またあなたの身体はきれいに色づくでしょう。まあ、私たちからしてみれば、あなたはいつも美しいですけど」
「……言ってくれるじゃない」
 サクラビスは、壺のもとへ泳ぎ、壺をひっくり返した。グミは海中に漂う。
「こんなもの、くれてやるわ。もう独占もする気なくした。どうせ私は、いつだってこの海で二番目に美しいのですわ」
「へえ、二番目?」
「ええ、一番はルギアですわ」
「ずいぶん高飛車なやつだと思ったけど、そこは認めてるんだね」
「うるさいですわ……」
 周りにいたポケモンたちは、近くに来たグミを拾った。そして、サクラビスのもとへ泳ぐ。
「一緒に食べましょう。今日はパーティです」
「アンタたち……」
「これからは、ずっと一緒に食べましょう。そしていっぱいお喋りして、いっぱい笑いましょう」
「……そうね」

 これで一件落着。
 ノアはパッチールが自分の指示以上のことをしてくれたことを感謝し、海底、すなわちリリーとルギアのもとへと向かった。

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