+ 第17話 出来損ないのコピー +


 西部の孤島に、世俗から取り残されたようなところにある“西の洞窟”に、リリーは足を踏み入れる。ノアも続いた。
 洞窟の扉は、ノアが入るとひとりでに閉ざされた。
 何かの視線を感じる。これはまさしく、“地底遺跡”の扉を開けることができるあのポケモンのものだろうと気づいた時、洞窟内がぱっと明るくなり、大部屋の奥にミュウから作られたポケモンが立っていた。
 遺伝子ポケモン、ミュウツー。
「何をしに来た……」
 ミュウツーは返事を聞くことなく、手の内にエネルギーを集める。リリーとノアは、壁にぴったりついた。
「“波動弾”」
 まさに光速といったもので、避けられるわけがなかった。
「わざとぶつかったのか?」
「か、壁にぶつかると痛いから壁についてただけ! 次はこっちからだよ!」
 リリーは、“電光石火”でミュウツーに向かう。だが、ミュウツーの二本の腕で、こめかみをぴったり押さえられてしまった。
「無駄だ」
 そのまま力まれ、リリーは声にならぬ苦痛を浴びた。ミュウツーがふっと力をゆるめると、その場に落ちた。
「リッ」
 ミュウツーは、ノアの前に移動する。よく見ると、地に足がついていない。
「次はお前だ」
「……」
 ノアは炎をまとった。これでミュウツーは、リリーにしたようにはできない。
「そうしても、私は波動弾を撃つまでだぞ」
「……」
 ノアは、後ろでリリーが何をしているかはっきり見えた。だが、リリーがしたいことは極めてリスキーだ。
 炎をまとったまま、角に移る。ミュウツーはまた、腕に波動の力を込めた。
「至近距離で浴びせてやる!」
 だが、ノアはそれを避けた。ノアも“電光石火”を使うことができる。だが今回は、攻撃ではなく回避に用いた。
 波動弾は角にぶつかり、角にひびが入った。
「なっ……?」
 ノアはリリーの方を向いた。リリーは力なく笑う。
「ずっと、この部屋の角に電気を流していた……この部屋を崩すために」
 鍛えられた電気技なら、建物を崩すことも可能だ。だがリリーには体力がなく、最終的にミュウツーの技が建物を崩すよう仕向けていたのだ。
 がらり、と嫌な音がする。回避したノアが、建設が古すぎて傷んでいた天井を焼き、その部分だけがミュウツーに向かって落下する。
「う……おお……!」
 そのまま、上の土もかぶさる。ノアは、逃げ場を確保するため、炎をまとったまま、洞窟の扉を焼き尽くした。
「もう反撃もできないでしょ。ボクたちは、君を倒しにきたんじゃない。“地底遺跡”の扉を開くために協力してほしいだけだよ」
 リリーとノアは、ミュウツーにかぶさった天井の塊と土をどけた。ミュウツーはよれよれと立ち上がり、西の洞窟の外へ出た。外は快晴であった。

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