+ 第17話 出来損ないのコピー +


「私は……私は……」
「ミュウツー。一体何があったの?」
 さっきまでは凄腕で、今では手を地面につけて震えるミュウツーに、リリーは優しく話しかけた。
「私はミュウのコピーだ。ミュウの睫毛から生まれた、な。だからミュウツーという名前をしている」
 リリーたちは、黙って頷いた。
「だがな、この世界ではどうだ? ミュウの睫毛から私を作り出したのは人間だ。だがこの世界に人間はいない」
「どういうこと?」
「私は、あちらの世界におけるミュウツーのコピーなのだ。もはやルーツも何も、あったものではない。上の存在も、なぜ、私を作り出したのか……」
 そう言って、ミュウツーは右腕で地面を叩いた。地面に少しひびが入った。
「私も、……こう言ってはおかしいのかもしれないが、“ミュウツーのオリジナル”も、なぜ、存在しているのだろうな……」
 リリーは黙り込んで、しばらくの間考えた後、こう応えた。
「んー、それって、皆にあてはまることじゃないかな? 私にはパパとママがいるけど、パパとママから生まれたのがどうして“私”だったのか、それの説明はできないもん」
 ミュウツーの求める答えと少しズレているということは、リリーも承知していた。
「そもそも、なんでこっちの世界にいるのか、とかね。私は人間だから」
「人間……?」
「うん。多分君は嫌いだと思う」
 ミュウツーは顔を上げた。その、どう見てもピカチュウにしか見えない、リリーという人間に自分は負けた。
「リリー」
 ミュウツーにやられてずっと倒れていたままのノアだったが、会話がどうしても気になり、渾身の力で起き上がった。
「ミュウツーは、強いよ」
「わかってる」
 リリーは、ノアに言われ、一歩踏み出した。
「ミュウツー、一緒に“地底遺跡”に行こう。君のエスパー技で、あの扉を開けるんでしょ?」
「地底遺跡……地底遺跡か」
「ん、どうしたの?」
「あそこには、本当の私のオリジナル……とは別個体だろうが、ミュウがいる」
 リリーたちは仰天した。ミュウは幻と呼ばれるポケモンで、個体数も減っているということは知っていた。
「だから、断る。オリジナルに合わす顔がないさ。まあ扉くらいは開けてやっても」
 ミュウツーは、そっと目を伏せた。リリーもあきらめようとしたが、次はノアが一歩踏み出た。
「それでいいの? ここでまたひとり、ずっと自分の存在について悩み続けるの?」
「ノア」
「それに、扉を開けられるのは、内側のミュウじゃなくて、外側の君、ミュウツーなんでしょ? 少なくともそれだけで、この世界のミュウは君のことを仲間として認めてるってことじゃないかな?」
 リリーより傷だらけのノアは、痛みを悟られないように、ゆっくり、それでもはっきりと話した。
「仲間、か」
「ボクとリリーは仲間、ミュウツーとミュウも仲間、でしょ」
 ミュウツーはすっくと立ち上がった。リリーは思わず笑顔をこぼしたが、それに気がついたミュウツーが言い放った。
「言っておくが、まだ中に入ると言ったわけではない。扉を開けるとは言ったが」
「ん、わかった。それじゃ行こう!」

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