+ 第18話 伝説の救助隊 +


 ミュウツーは、地底遺跡の扉に向かって立ち、手と手を強く打ち付けた。
 そのまま集中力を上げる。扉は、やがて真ん中から溶けていった。
「開いた……」
 その様子を、リリーたちは驚きのまなざしで見ていた。
「ここがミュウのいる、そして、最後の」
「うん。それで、ミュウツーは」
「……」
 ミュウツーが瞳を閉じると、ざあっと風が吹いた。“地底遺跡”の扉の下の階段に向かって吹いているのだ。
 そして、ミュウツーは少し瞳を開いた。
「私も行こう。やはりここには、仲間……といえるのかはわからないが、ミュウ、がいる」
「……うん。それじゃ、私から下りるね」

 一番最後についたノアが、階段を下りはじめ、地上から頭が少し隠れた時。
「おい、待てよ! オレも連れてけ!」
「ゲ、ゲンガー!」
 その声が聞こえたノアは、その場で振り返った。
「一連の事件にはオレも関わってるつもりだ!」
「あっ、追いついた!」
 どうやら新たな登場人物はゲンガーだけではなかったらしい。
 彼の忠実な部下、チャーレムとアーボも、後を追っていたのだ。
「お、お前ら」
「なんで勝手に……ワタシたちがいるじゃないかよっ!」
「……」
 ノアのあまりの遅さが気になり、リリーは階段を引き返した。
「あ、あれ、ゲンガー」
 リリーがそう言ったが、ノアは、ここは大丈夫だから、と囁いた。
「ゲンガー、ひょっとして……言ってないの?」
「……」
「どうしたんです? ゲンガー」
「まあ、話さないほうがいいのかもね」
 ノアが冷たく言い放つと、ゲンガーは元から悪い目つきをさらに鋭くし、ノアを睨みつけた。
 ノアは少したじろいだが、ゲンガーから目を逸らすことはなかった。
「こちらから止めておいて悪いが、先に行ってくれ。話してから、オレたちはイジワルズとして遺跡に乗り込む」
「ゲンガー……うん、わかった」
 何がなんだかわからないという様子のリリーを先に行かせ、ノアは階段を下りた。
「全部、話す」
 ゲンガーは、まずしばらく歯を食いしばって、重い口を開いた。

「オレは……お前たちとは一緒にいられない」
「えっ」
「なんでだよっ!」
 理由を言う前に、相手から何故だと聞かれると、余計気持ちが重くなる。
「……あいや、うん、聞くよ……」
「オレは、人間だからだ。それもキュウコンのタタリの話に出てくる、な」
 アーボとチャーレムは、さっきのように即座に反応はしなかった。
「に」
「ニンゲンーッ!? それも、タタリの!?」
「そうだ。隠していて、悪かったな! ハハッ!」
 ゲンガーは、静けさを保った森で高らかに笑った。
 アーボもチャーレムも、何も言えなかった。ゲンガーが空気に耐えられず笑うことをやめると、アーボが口を開いた。
「ゲンガー、無理してませんか?」
「えっ」
「そうだよっ!」
 こんなことを言おうとも、自分のことを心配してくれる子分たちを前に、ゲンガーは、もう何も言えない思いだった。だが、けじめはつけなければならない。
「お前たちは、オレを責めないのか。自分のことは棚に上げて、リリーに濡れ衣を着せ、キュウコンの話の決着も話していない、オレを……」
 アーボとチャーレムは、お互いの顔色を伺った。お互いが、特にゲンガーに嫌悪感を感じてはいないと、そこでわかった。
「それでも、ワタシたちのことは仲間として迎えてくれたじゃないか! ちょっとセコイ冒険の数々、アタシは全部覚えてるよっ!」
「なっかなかスリリングだったよなー。もうさ、このポケモンがリーダーでよかった、って思うもん!」 「……でも、ポケモンじゃ」
「あっ……」

「オレは、あれから、キュウコンと、それから、もっとすごいヤツと、話をつけた。だから、“世界の綻び”の件が、解決したら、人間に戻る。だから、これで、最後だ」
 ゲンガーは涙をこらえながら、ぷつり、ぷつりと言葉を漏らした。
 最後。その言葉が、部下二匹に重くのしかかった。
「そうか……最後か。それじゃ、めいっぱい楽しまねーとな」
「アーボ……」
「そうだよなっ! ワタシ、こんなすっごそうなとこ、冒険すんの初めてだし! ワクワクするよ!」
「チャーレムまで……」
 そこで、ゲンガーは涙を堪えられなくなった。もう、部下たちの前では何を見られてもいい、という気持ちもあったのだ。
「それじゃ、行こうぜっ!」
「ああ」

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