+ 第18話 伝説の救助隊 +


 階段は、やがて螺旋を描くようになった。だが、ひたすら階段ばかりで、広間といえるものは見つからない。
 壁や天井には、パッチールが言っていた“神様の印”なるものが描かれていた。
「ここも、<世界の審判>にまつわる場所なんだね。ということは、ミュウもまた<審判>に仕えるポケモンなのかな」
「それはない」
 リリーの問いかけを、ミュウツーは否定で答えた。
「ミュウは、何にも染まらぬ存在だ。それでいて、全てのものになることができる。そういう意味では、あの<審判>とやらとは似ているな。ミュウをポケモンの祖と考えるのであれば」
 リリーは足を遅めて、そのミュウツーの言葉について考えた。<世界の審判>がポケモンにも人間にも染まらぬ存在という意味で言っているのであれば、そこはミュウとは合致する。しかし、「全てのものになることができる」というのは、どういう意味であろうか。
「あの、ミュウツー」
「待て」
 ミュウツーは長い腕を振り上げ、前に寄ってきたリリーを制した。
「見ろ」
 ミュウツーの視線の先には、階段の踊り場があった。
 さらにそこには壁画が描かれている。群青色と桃色の竜が描かれ、真ん中には白い光。そこにはミュウツーもミュウも描かれてはいなかった。
「創造神と、神の分身だな」
「これが……」
「色がはげてはいるが、これは仕方がないな。……む」
 ミュウツーは、その壁画に何かを感じたらしく、腕を伸ばした。
「この波動は……」
「えっ」
 直後、地下から桃色の身体をしたポケモンたちが向かってきた。壁が見えなくなるほどの大群だ。
「ミュウッ!」
「えっ」
 ミュウツーは、視線をミュウに向ける。
「“サイコウェーブ”!」
 ミュウツーの攻撃から、このミュウたちは攻撃対象なのだとわかったリリーとノアも、それぞれ得意技で追撃した。
 だが、ミュウには全然効いておらず、そのままミュウツーたちに突進してきた。 「ぐあ……!」
 ミュウツーは低く呻き、リリーとノアは力なきポケモンのごとく吹っ飛ばされた。
 壁に当たり、背中から階段に落ちて大怪我をするのだろうと、飛ばされながら絶望をしていたが、そのようなことにはならなかった。
「痛……くない」
「あれ、アーボ」
 受け止めた存在に先に気がついたのはノアだった。リリーも目を見開く。リリーを、チャーレムはしっかりと受け取っていたのだ。
「“夢喰い”」
 そのチームのリーダーは、ミュウの大群を自分の身体に吸い込んだ。
「な、なんで……」
「全部「夢」だったってこった。ミュウツー、何か幻でも見てたんじゃないか?」
「幻……」
「遺跡の仕掛けかもしれないぜ。ともあれ」
 ゲンガーはそこで言葉を止めた。身体にせりあがるものを感じたのだ。
『お前は、ミュウとの運命を断ち切ることを望むか。それとも、共に生きることを望むか……』
 その声はゲンガーの口から発せられたが、声色はゲンガーのものではなかった。かといって、サーナイトや<世界の審判>のものでもない。
「断ち切る? 共に生きる……?」
 ミュウツーは、右腕で自分の心臓を抑えた。鼓動が高鳴る。
「わからない。私は何がしたいのか……」
 ゲンガーは我に返ったが、全身汗まみれになり、立っているのも困難な状態だった。チャーレムとアーボが駆け寄る。
「大丈夫だ、オレは生きている。ただ、吸い込んだ夢に暴走されちまったのは初めてのことだったけどな。リリー、ノア、最下層に向かえ。ミュウツー、んなもん、本物のミュウに会ってから考えろ」
「……わかった。ミュウツー、歩ける?」
「……ああ」
 返事はしたものの、ミュウツーは放心状態も同然であった。リリーとノアは、ミュウツーの両側に立つ。
「それじゃ、行ってくるよ!」
 さっきまでミュウの大群が見えていた場所は、一直線の階段であった。さらに奥、最後の段が見えた。あの場所こそが、大広間だろう、とリリーは確信した。

⇒NEXT