+ 第18話 伝説の救助隊 +


 大広間には、一段と古い建物があった。入り口はない。
「……“万年の家”?」
「かな……もう下はないみたいだし」
 リリーは恐る恐る近づいた。ノアとミュウツーも続く。
 普通は、このような建物は宝物部屋と呼ばれ、カギを使って入るのだが、今回は二枚の羽根がカギとなる。
 その古い建物に、円形が描かれていることに気がついたリリーは、その前に立った。
 その時リリーの鞄の中で、使いもしないのに大切に保存されてきたものが反応した。
 リリーはすぐに何かわかり、それを取り出す。虹色の羽根と、銀色の羽根だ。
 その羽根は、淡くオーロラ色を浮かべて、自らは透き通っている。色が抜けていっているのだ。
 リリーが“万年の家”の扉に羽根をかざすと、そのオーロラは渦巻き、遺跡にまとった。

「伏せろ!」
 何者かの低い声が響き、遺跡はひび割れはじめる。リリーたちは、何が起こっているかも分からぬまま、その場に伏せた。
 爆音が轟き、砂壁は崩れ落ち、砂嵐がリリーたちを襲った。
「痛……くない……?」
 砂嵐の中、リリーは自分の前に立つ影の存在に気がつき、左目を少し開いた。
「あなたは……」
「……、……ヒイラの相棒。……」
 前に立つ影の声は、その言葉だけが砂の音にかき消されず聞き取ることができた。
「えっ……」
 強風は治まった。どうやら、“地底遺跡”そのものが隆起したようで、太陽の光の眩しさを感じた。
 だが、既に遺跡は建物もろとも原型を留めておらず、一部は海の波にさらわれていった。
「あのひとは……」
「ん、どうしたの、リリー?」
「守ってくれた……」
「え? あ、そうか、あの中でボクたちが吹っ飛ばされなかったのは……」
 ノアは、特に嵐が吹き荒れている時には感じられなかったようだ。
 だが、ノアは別のことに気がついた。
「リ、リリー! 救助バッジが」
 そう言われ、リリーは救助バッジに目を落とす。バッジは、今までと全く違う形になっていた。
「これは」
「……ルカリオランク。救助隊の中でも、最高だと認められた隊のみがなれる、伝説のランク……」
「ルカリオランク……?」
 ノアは惚れ惚れ、そのバッジを眺めた。リリーも、バッジを鞄から外して、じっくり見る。
 その時だろうか、何か可愛らしくも神秘的な声が聞こえた。
「この声は……」
 一番反応が早かったのはミュウツーであった。
 天使なんてものがいるのなら、こんな声を出すのだろうか、とリリーは思ったが、ここはポケモンワールドだ。
「ミュミュウ!」
 ミュウはミュウツーを見つけると、柔らかな曲線の軌道を描いてミュウツーの顔の前まで飛んだ。
「ミュウツー、ボクの弟……あれ、妹かな? よくわかんないけど」
 ミュウは、そこで声を潜めた。会話はリリーたちには聞こえない。
「ミュウ……私の気持ちを汲んで」
「……」
 ミュウは、ミュウツーから目を逸らして、そしてリリーとノアにも微笑みかけ、またどこかへ飛んでいった。

 ミュウツーは、小さくて大きな救助隊の方へ向き直った。ノアは思わず訊ねる。
「ねえ、何話してたの? もし話してもいいようなことだったら、教えてほしいなって」
「……お互い住処は破壊された。この世界のために。これから一緒に住む場所を探そう、と」
「ミュウ……“西の洞窟”のこともお見通しだったのかな」
「そうだな、あいつは私のことをよく知っているし、私もあいつのことはよく知っている。それに私は確信した。あのミュウは、元の世界で私のオリジナルとなった個体だ」
「そんなことがわかるの?」
「なんとなく、感じただけだ。だが、私が能力、ミラクルアイを使った時に映ったあのミュウは、右の睫毛が一本少なかった」
 そう言って、ミュウツーはフッと微笑んだ。ミュウとは違う微笑み方だが、こちらもまた、温かみがあった。

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