+ 第3話 再会 +


 そのヒノアラシの名前をもう一度呼ぶ。
「うそ……ノアだよね……」
「……そうだよ」
 ノアはリリーのほうに向かって歩いてきた。以前より、ちょっと顔つきが大人っぽくなっていた。
 目の前まで来るなり、ノアはリリーの頬をおもいっきり叩いた。ちょうど電気袋のあるところだからよくわからないが、頬は赤くなってひりひり痛んだ。
「バカ、バカ、バカバカバカ! 遅いよ、ずっと待ってたのに!」
 その子供らしい罵り文句に、リリーは安心を覚えた。
「ごめん。でももう一度会えたのだって奇跡だと思うよ」
「そうだけどさ……」
 ノアはリリーのことをひと時も忘れなかった。リリーは優しい気持ちになった。
「ありがとう。ノア。ずっと待っててくれて」
 ノアは意表をつかれた。言い返してくると思ったのに、穏やかな口調でお礼を言われて戸惑った。
「たぶん、またしばらくここにいられるから」
「しばらくってどのくらい?」
「わからない。でも、私がここに来れたってことは……この世界で、また大きな問題が起こるってこと」
「え? それってどういうこと?」
「そう思うよね。とりあえずここでは危ないから、あのしげみに隠れよう。そこで話すわ」

 リリーは、自分の家系のこと、ヒイラに聞いたことをひととおりはなした。
「……というわけなんだけど」
「なるほど。ところでリリー、<世界の審判>の声は聞いた?」
「<世界の審判>の声……そういえば、聞いてないなあ」
「そっか。<世界の審判>に、今世界では何が起こっているのか聞くことができれば、 一大事になる前に一件落着にできるかもしれないのになあ。 ……ボク、この前、ヴォルガに会ったんだ。あの、<世界の審判>に仕えているっていう。憶えてる?」
「ヴォルガ……もちろん憶えているよ」
「ホント偶然出会って、すぐさま呼び止めたよ。それで、<世界の審判>にもう一度会うにはどうすればいいのか訊いたんだ。 でも、答えはなかった。<世界の審判>と会って話をするのは、仕えているポケモンたちでも難しいことなんだって」
「仕えるポケモンたちでも?」
「うん。<世界の審判>は全力をあげてこの世界を守っているから。他の神様や伝説のポケモンたちと力を合わせてね。 だから、基本的に他のポケモンたちとはあまり話せないんだって。世界の微妙な均衡を守るため……均衡がくずれた時だけ、他のポケモンや人間と協力をしなくちゃいけないから、話ができるらしい。 ヴォルガも、『次はいつ話せるのか、我が主と』なんて言って、そこまで話してどっか行っちゃった」
「よくわかったよ。やっぱりあっちは神様だもんね。もともとあまり話せないのはわかっているよ。でも私をここへ呼んだのは<世界の審判>だと思うから、またいつか声を聞けると思うんだけど……」
 そこで話は切れた。そこでリリーは、広場でまた話そう、と付け足した。
「じゃあ、そろそろ救助隊の仕事の続きをしないと」
「え? お仕事中だったの? どうしよう、邪魔しちゃった! 依頼主さん、大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。今回の依頼は、『わかくさグミを持ってきて欲しい。遅くてもいい』だから」

 ノアは救助の仕事をすませた。チームRUNの救助バッジは、ゴールドランクからプラチナランクになっていた。
 ノアは、リリーと別れる時に聞いた『チームRUNをよろしくね』というリリーの願いのとおり、ずっと救助活動を続けたのだ。
 ゴールドランクからさらに上のランクまでいったということは、リリーの思った以上に仕事にはげんでいるのだろう。
 リリーとノアは救助基地に戻った。
 ここは、リリーにとってはもうひとつの『家』だ。
「なんかここに来て早々、難しい話しちゃってごめん……」
「いいよリリー!」
 そしてもう一度、リリーとノアは再会を喜び合った。
「私も<世界の審判>に仕えたら、もうちょっと話せるようになるのかなあ……。そもそもヴォルガは、どうして<世界の審判>に仕えているのかなあ」
「これはナマズン長老から聞いた話だけど、ヴォルガのところは、先祖代々<世界の審判>に仕えているんだって。ヴォルガ以外にも、<世界の審判>に仕えるポケモンはいるけれど、そのポケモンたちもまた先祖代々<世界の審判>に仕えているんだと」
「なるほどね。だとしたら、<世界の審判>が“代表者”だった時代の友人とか……なのかな?ヴォルガの先祖は」
「恐らくはそういうことだと思うよ」
「次は……一体何が起きているんだろう? ノアと会えた! と思ったら、こういうことを考えないといけないなんて、ちょっと心臓に悪いよ」
 リリーは身震いした。
「とりあえず、<世界の審判>が現れるのを待とう。もう夜だし、寝ないと……」
「なんか、あんまり眠くないな……ノア、何か話してよ」
 これも一種の時差ボケなのだろうか。リリーは、あんまりと言ったが、全く眠たくないのだ。
「うーん……じゃあ、ナマズン長老に聞いたどこかの土地の童話でいい?」
「うん、いいよ! 童話大好きだし」

 ノアのした話は、どこか遠くの大陸が舞台の冒険物語だった。

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